バンクーバー五輪 匠たちの挑戦BACK NUMBER
ルールに翻弄されるスキージャンプ。
日の丸飛行隊を蘇らせた最新スーツ。
text by
茂木宏子Hiroko Mogi
photograph byKYODO
posted2010/02/11 08:00
日々変わっていく“最高のジャンプスーツ”を求めて。
「でもね、人間の体のサイズは日々変わりますから、今日よくても明日の保証はありません。とくに五輪のようなビッグゲームになると様々な揺さぶりがあるんです。昨日は何の問題もなかったスーツが、“この部分がちょっと大きい”なんていきなり検査員に言われることもザラなんですよ」
そんなときはすぐさま愛用のミシンを取りだして、選手控え室で小田が手直しをする。選手控え室でこんなことをやっているのは日本チームだけだ。
現にトリノ五輪では、こんな冷や汗もののエピソードがあった。選手のスーツには日の丸と「JAPAN」の文字が転写プリントされていたが、シートを熱圧着させるのでこの部分は通気性が悪くなる。「まさか国旗と国名はチェックの対象にならないだろう」と日本チームは楽観していたが、日本が参加していなかった五輪直前のワールドカップのコーチミーティングで、「製造メーカーマーク以外はすべてチェックの対象となる」ことが決められていた。このままでは選手が出場できなくなると焦った小田は、全員のスーツの国旗と「JAPAN」の文字に空ミシンをかけてひたすら穴を空け、規定の通気量を確保したのだった。
本番でのどんな状況でも対応できるサービスを提供する!
「五輪前から国と国の戦いは始まっているんですが、ヨーロッパから物理的に離れた日本はどうしても情報戦で不利になりがちです。ぼくらができることは、どんな状況にも対応できるスキルを持つことと、選手にとって精神的にプラスになるようなスーツを供給することです。とにかくベストを尽くすしかありません!」
そう言い残した小田は、2月9日にバンクーバーへ向けて旅立っていった。性能に加えて“安心感”という武器を手に入れた日の丸飛行隊が、バンクーバーの空を再び高く遠くに舞うことを期待したい。