欧州CL通信BACK NUMBER
バルサ4度目のCL制覇を陰で支えた、
プジョルとアビダルの見えない功績。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/05/30 12:30
プジョルから渡されたキャプテンマークを左腕に巻き、チームで最初にビッグイヤーを高々と掲げたアビダル(右)と、驚異的なパス成功率でゲームを支配したシャビ
ロナルド・クーマンの弾丸シュートによりサンプドリアを1-0で下し、ヨハン・クライフ率いるバルセロナが史上初めてヨーロッパの頂点に立った場所、ウェンブリー・スタジアム。あれから19年、当時選手としてクラブの歴史に名を刻んだジョセップ・グアルディオラに導かれたバルサは、再び辿り着いた英国フットボールの聖地でのファイナルを制し、史上4度目のビッグイヤーを獲得した。
今回の決勝を見て感じたのは、これほど見ていてドキドキしない決勝は初めてだということだ。理由はもちろん、バルサが強すぎたから。マンUに押し込まれた立ち上がりの10分間も、ルーニーが同点弾を決めた時すら動揺はなく、すぐにバルサがゲームを支配し、ゴールは生まれるだろうという確信が常にあった。それほどバルサの強さは際立っていた。
試合終了間もなく、ラジオ『カデナ・セール』で解説をしていたジャーナリストのフリオ・マルドナードが「この試合については分析すべきことがあまりない。バルサの優越性は際立っていた。ゴールラッシュにならなかったのが不思議だ」と言っていた。
彼が言う通り、「マンUはこう戦うべきだった」と論じるならまだしも、バルサの視点からピッチ上で起きた90分間を分析することはあまり意味を持たないかもしれない。なぜなら彼らは、いつも通りのメンバーで、いつも通りにプレーし、いつも通りにゴールを決めて勝っただけだからだ。
今回の決勝で最も驚いた、エリック・アビダルの先発起用。
そこで改めてバルサがマンUを上回った理由を掘り下げても、恐らく「メッシのドリブルは止められない」とか、「シャビやイニエスタからはボールが奪えない」といった、誰もが分かっている結論に辿り着くだけだろう。ならば言葉で説明するのではなく、実際に映像を見てもらった方が良い。ゆえにここでは、少しプレーから離れた部分について触れたい。
今回の決勝で最も驚いたのは、エリック・アビダルの先発起用だった。
ご存じの通り、アビダルは3月半ばに肝臓がんが発覚し、緊急の摘出手術を受けた。手術は成功したものの、当初言われた復帰までの目安は6~7カ月。今季絶望である。
しかし、彼はそこから驚異のスピードで回復を遂げ、手術から僅か1カ月半後の5月3日のCL準決勝第2レグ、レアル・マドリー戦で数分間の出場を果たす。その後も国内リーグで徐々に出場時間を伸ばし、術後72日目のCL決勝で初めて先発フル出場するに至った。
昨年11月17日の国際親善試合、イングランド対フランス戦。フランス代表の一員として試合会場のウェンブリーを訪れたアビダルは、自身が使用したロッカーに「5月のCL決勝に戻って来るぜ」と落書きを残していた。その後、一時はCLどころか命を失う危機にまで直面した彼は、周囲のサポートのもとで奇跡的な復活を遂げ、見事ロッカーに記した公約を成し遂げたのだった。