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ジーコ 我らが親分、名将となる。 

text by

渡邉将之

渡邉将之Masayuki Watanabe

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photograph byShinji Akagi

posted2008/05/01 17:24

ジーコ 我らが親分、名将となる。<Number Web> photograph by Shinji Akagi

 〈ありがとうフェネル〉

 4月8日に行われたCL準々決勝第2戦でチェルシーに0―2で敗れ敗退が決まったフェネルバフチェ。翌日の地元紙には、普段見慣れないこのような見出しが並んだ。

 本来なら第1戦に勝利しながら敗退したことは批判されるべき結果だ。しかしこの日の紙面では、普段は批判に全力を注ぐ評論家たちも褒め称え、欧州のベスト8まで勝ち残ったことに満足するコメントで溢れていた。トルコのメディアにとって、フェネルバフチェの快進撃はこれまでに味わったことのない奇跡だったのである。

 転機は3つあった。まずは幕開けとなったグループリーグ初戦のインテル戦。ジーコは組み合わせと日程が決まった段階で、この試合の重要性を説いている。

 「ここで良いスタートを切ることができれば、私たちは大きな仕事を果たすことができる」

 その試合、フェネルバフチェはこれ以上ない最高のスタートを切った。選手は今シーズンのベストパフォーマンスと言われるほど、ジーコの哲学である「戦い」と「貪欲な勝利への気持ち」を前面に出したプレーを見せ、インテルが主力を怪我や累積警告で欠いていたとはいえ、完勝を果たしたのだ。この試合はチームに勢いを与え、またそれ以上に「監督の望んだプレーをすればビッグクラブにも勝てる」という自信も植え付けられた。ジーコはベスト8を決めた後に、初戦の重要性を改めて振り返った。

 「インテル戦で見せたパフォーマンスが私たちの成功したいという熱意とチームの自信をより大きくした。それがここまで来ることができた成功に繋がっている」

 インテル戦がチームに自信を植え付けさせた試合ならば、第2戦となったアウェーでのCSKAモスクワ戦はジーコにとって監督としての評価を変えた試合であった。

 この試合、フェネルバフチェは先制点を奪いながらも、後半にミスから失点をし、逆転されるというヨーロッパで勝てないチームの典型的な負けパターン。しかし、ジーコはこの流れを自ら断ち切ったのだ。

 後半27分にDFエドゥに代えてDFヤシン、ボランチのデニズに代えて右サイドのカズムを投入し、それまで右サイドにいたデイビッドが前線に入り、4―5―1から4―4―2に変更。さらに5分後、センターバックのルガーノに代えてギョクハンを投入したのだ。大胆な采配に加え、自身が絶対的な信頼を寄せるルガーノ、エドゥを代えるという、誰も想像できない交代策を施したジーコ。しかも、交代で入れたのは皆CL初出場の若い選手。危険な賭けだったが、攻撃的な姿勢を取り戻したチームは盛り返し、40分にデイビッドがゴールを奪い、同点に追いついたのだ。後にギョクハンはこの試合での活躍が認められ、レギュラーを獲得することになる。ジーコの采配は、勝ち点と新しい戦力発掘という2つの収穫をチームにもたらしたのだった。

 〈名選手だったジーコだけが理解できる交代策がチームを救った〉

 試合後地元メディアはこう評したが、この試合までジーコは交代に消極的で「試合の流れが読めない監督」というレッテルを貼られていたのだ。見事に評価を覆したジーコだが、試合後に交代策の理由を質問されると、正直にもこのように説明している。

 「エドゥは怪我をしてしまった。ルガーノはイエローカードを受け、退場させるわけにはいかなかったんだ」

(以下、Number702号へ)

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