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本田圭佑 何で他人が俺の進む道を決めんねん。 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byKeita Yasukawa

posted2008/05/01 17:44

本田圭佑 何で他人が俺の進む道を決めんねん。<Number Web> photograph by Keita Yasukawa

 霜が解け、濡れた芝のピッチ──。

 本田圭佑は、チームメイトとランニングを始めた。背丈は大柄なオランダ人の中にあって目立たない。だが、オランダのピッチや激しい当たりで鍛えられたのか、ガチっとした下半身はアップスーツの上からでも分かるほど一段と逞しくなっている。どうやら本田は、順調に海外仕様に変わりつつあるようだ。

──星稜高校から名古屋に入団した時、3年契約だったけど、この時から海外移籍のことを考えていた。

 「そうですね。本当は高校卒業して、すぐに海外に挑戦したかったんです。でも、当時の僕は経験もなかったし、代表にも選ばれたことがなかった。現実的には無理だと分かっていたんで、まぁ3年という月日が自分には必要かなと思って……。ただ、やっていくうちに状況や考えが変わってきて、2年目が終わった時がベストかなと思ったり、3年は長いなって思ったりもした。でも、3年目に五輪最終予選のカタール戦をはじめ、いろんな意味で成長できた。だから、結果的に、そんなに悪い3年間じゃなかったなと思います」

──今年は、北京五輪がある。大事な時期だけに日本に居残る選択もあったのでは?

 「僕にとっては待ちに待った3年なんで、もう1年待つなんて考えられなかった。夢にも出てくるんですよ。自分がいろんなユニフォームを着て、試合しているんです。名門チームで、しかもけっこう似合っている(笑)。確かに、今年からピクシーが来るとか聞いたし、北京五輪があるから日本にいた方がいいとかいろんなことを言われたけど、何で他人が俺の進む道を決めんねんって思ってた。自分の道は、自分が決めるっていうことです」

──日本を早く出たいと考えた理由は。

 「吸収するものの違いです。五輪代表でいろんな国と試合をすると、その試合が終わった後に得られるもの、つまり吸収するものがJリーグでの1試合と全然違う。中身が違うっていうか、充実感が違うというか、うまく言い表わせないけど、すごく成長した気がするんです。もちろんJリーグでも成長できるし、レベルの高い試合もあるけど、やはり世界で戦うのとは違う。例えば、ワールドユースもそう。初めての大きな世界の舞台で、僕は何もできなかった。でも、オランダの選手は当たり前にプレーして、僕らチンチンにされましたからね。衝撃的だったけど、凄くいい経験になった。そういう経験を日常的にしたい。しかも、その時、活躍したクインシーはガーナ代表でプレーしているし、大会MVPになったメッシ、セスクも今、バリバリ活躍している。それを考えたら遅れるどころの騒ぎじゃないくらい離されているんで、もっと差が開くという焦りもありました。だから、五輪というよりも一刻も早く海外に行きたかった」

──オランダを選択したのは?

 「いきなりスペインとかのトップリーグには行けないんで、そこからちょっとレベルが下がったオランダがいいかなと。攻撃的なサッカーが自分には合っているし、(藤田)俊哉さんや(平山)相太君ら周囲の人のアドバイスも大きかった。それに名選手はオランダを経由しているのが多いのも理由のひとつ。でも、このチームは強くないし、大丈夫かって心配する人もいる。確かに強くないけど、毎試合、本当に強いチームと試合ができる。PSV、フェイエノールト、アヤックスとか。それが、凄くいい経験になっているんで問題ないですよ」

──技術的には学ぶことは少ないと思う。ここで何を吸収していきたいのか。

 「どうしたらゴールを決められるのか。それをシンプルに考えている欧州に、そう、“フットボール”を学びに来たんです。実際、ここに来て分かることがすごく多い。スライディングは深いし、スピードや体の強さには全く勝てなかった。それに、例えば攻撃では、日本だと中盤でゆっくり繋いでボールを大事にするけど、こっちは1本のパスで狙ったり、強引すぎるくらい縦にドリブルを仕掛けていく。それは、1対1で仕掛けても取られない自信があるからだし、行けばそこで何かが起こると考えているから。ほんと、ゴールに対してのアプローチがシンプルだし、そうしないと評価されない。だから、僕も日本でチャレンジしなかったプレーもしてます。ただ、違うやろっていうのもありますよ。練習でできないことは試合でもできないというのが日本人の考え方。僕は、きっちり準備してプレーする。海外では練習で手を抜いても試合で結果を出せばいいっていう考え方の人がすごく多い。それで成功する選手もいるんで、すごいなぁと思うけど、自分はそんなやり方はできない。だから、失敗しろって、心の奥底で思ってます(笑)」

──はじめての海外だけど、基本的にサッカーがあれば、どこでも生きていける?

 「もう3カ月になるけど、ストレスもないし、ホームシックになったこともない。たまに家族に連絡取ったりするけど、会いたいとかも思わない。ただ、落ち着く場所というか、自分の家は大事ですね。音楽を聞いたり、ウイニングイレブンしたり、自分が好きなことをできる場所。ホテルのように寝床と生活する場所が一緒だとダメなんです。家さえクリアーになれば、どこの国でもいいですよ」

──もう、日本に帰る気はなさそうだね。

 「自分は、ね。僕は単純にこっちの生活にもサッカーにもすごく満足している。しかも、ここには無限の可能性がある。だって、いろんな人が見ているんですよ。移籍する前に僕がVVVの試合を観ていた時、アヤックスの監督が隣で観ていたからね。だから、こっちでは、いつビッグクラブから誘いがあっても全然おかしくない。結果を出せば明るい未来が待っている。だから、そのチャンスをモノにしない手はないな、と。VVVとは2年半の契約だけど、その前にチャレンジできる状況になればいいかなと思ってます」

本田圭佑
VVVフェンロ

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