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ダルビッシュ有 「まだ見ぬ完璧」/特集:WBC後の選手たちを追う!
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph byMakoto Hada
posted2009/06/26 11:00
日の丸に特別な思い入れはないと公言した彼は、いかなる想いを秘め、あの場所で何を得たのか。日本代表チームの投手コーチを務めた与田剛、日ハムにおいて指導にあたった佐藤義則、そしてダルビッシュ本人の言葉を手がかりに、WBCを経た若き天才の「現在地」を探る。
こらえてはいる。ただし不機嫌ではない。顔立ちがあまりにもシャープなので、そう映るだけだ。
簡単には言葉にしたくない事柄について、取材者から「どうか語ってください」とぶしつけに求められて、それでも邪険にはせず、眉間に黒い稲妻のシワを寄せながら、一瞬、ナイフの視線を床に落とし、なんとか着地点を見つけようとしてくれる。
――WBCの経験で何かが変わりましたか?
「うーん。いい影響もありますし、悪い影響もあったりもしますし。プラスにもマイナスにもなりうる。自分を変えるのにはいい経験になりましたよね」
――プラスの影響とは。
「考え方ですよね。常に完璧を求めるのではなく余裕を持った考え方をできるようになった。ゼロに抑える、完璧に投げるばかりでなく、勝負どころに甘くないところに投げられればいいというような」
――ではマイナスのほうは? 大会の使用球と日本のボールとの感触の違いというようなことでしょうか。
「いえ、ボールはほとんど関係ありません。それよりも帰ってきてからの疲れはありましたよね。はい」
インタビュー時の断固たる拒否の言葉こそ、誠実さの証明。
――すべては経験として蓄積されていく。
「貴重な財産にはなりました。向こうの選手を見ることもできましたし、日本のバッターとピッチャーも見られたので。自分の中では、いろいろと考えることができた」
――財産の中身を具体的に教えてください。
「それは技術的なことなので」
――たとえば。
「それを言ってしまうと……。これから考えていく上でけっこう重要な材料でもあるから。自分が答えを出す前に言葉にするのはよくないかなと」
インタビュー時の成績は、7勝1敗、防御率が1.09、北海道日本ハムファイターズの切り札は説明を避けた。
6月某日、札幌ドーム内のドーピング検査室そばの部屋、くぐもった語尾で放たれた「自分が答えを出す前に言葉にするのは」という紳士的かつ断固たる拒否こそは、きっと純度100%の本心である。本来ならここで稿を閉じるべきなのかもしれない。