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「怪物・江川卓を攻略せよ」なぜ広島商は作新学院に勝てたのか?「じつは首を寝違えて…」江川が達川光男に言った「お前には1球も全力で投げてない」 

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安藤嘉浩

安藤嘉浩Yoshihiro Ando

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posted2025/03/30 11:04

「怪物・江川卓を攻略せよ」なぜ広島商は作新学院に勝てたのか?「じつは首を寝違えて…」江川が達川光男に言った「お前には1球も全力で投げてない」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

難攻不落の怪物・江川卓を広島商ナインはどう攻略したのか?

「雨にやられた」江川卓が明かした“敗因”

 さらに後日談がある。

「怪物」のデビュー戦を甲子園球場の外野席で観戦した西村欣也は、のちに報知新聞社に入社し、江川が入団した巨人の担当記者となった。

「入団をめぐる『空白の1日』があったこともあり、江川もマスコミを遠ざけようとしていたけど、根は明るくて頭がいい男だからさ。遠征先へ移動する新幹線の食堂車なんかで、いろんな話をした」

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 江川が引退した後、朝日新聞社に移籍した西村はぼくの先輩記者となり、当時の話をしてくれた。2018年に夏の全国高校野球選手権大会が第100回を迎えるに当たって長期連載した高校野球名勝負物語「あの夏」では、西村が江川、ぼくがその他の関係者を取材し、第55回大会(1973年)の2回戦、銚子商(千葉)対作新学院の裏側を物語として描いた。

 西村は親交が深い江川に朝日新聞東京本社まで来てもらい、編集局内のテレビに当時の映像を流しながら取材している。その際、選抜大会の裏話についても聞いている。

 作新学院と広島商が激突した準決勝は雨で順延になった。すでに3試合を投げている江川にとっても佃正樹にとっても、恵みの雨になると思われた。

 ところが、江川は「雨にやられたと思いましたね」と西村に打ち明け、秘めたエピソードを語り始めた。

 すでに江川はメディア攻勢にさらされていた。宿舎の電話は鳴りっぱなしで、部屋まで上がってきた記者もいたという。そのあたりは、ぼくも当時の監督だった山本(おさむ)から聞いている。「センバツを機に大変なことになった。ああなると、チームは壊れちゃうね」と打ち明けられた。

 江川はこのとき、隠し部屋のようなところへ避難したそうだ。そこにソファがあった。その上でウトウトしたという。「その時、首を寝違えたのよ」。翌日の準決勝は、その痛みを抱えたまま、マウンドに上がっていた。

【次ページ】 達川光男には「1球も全力で投げてない」

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