濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
高校を卒業した注目レスラー「トップ選手、油断してんじゃねえぞ」 スターライト・キッド戦“屈辱のタップ”を経て、吏南が誓う成長
posted2025/03/29 17:00

スターライト・キッドの持つ“白いベルト”に挑戦した吏南。3月で高校を卒業した
text by

橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
「その時期はたぶん自由登校ですね」
自由登校……あまりプロレス界では耳にしない単語が新鮮だった。言葉の主はスターダムの吏南。“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダム挑戦を決めた時に言っていた。
王者スターライト・キッドに挑んだ舞台は2月24日の宇都宮大会。栃木は吏南の地元で、なおかつ初のビッグマッチ開催だ。吏南はメインイベントに登場、姉の羽南がセミファイナルでタッグ王座防衛戦。双子の妹である妃南は若手王座フューチャー・オブ・スターダムに挑んだ。
ADVERTISEMENT
吏南と妃南は地元の高校に通い、3年生で卒業間近の時期。テストも終わって「自由登校」というわけだ。会場には同級生たちも訪れていた。
「油断してんじゃねえぞ」“若手卒業”の決意
羽南、吏南、妃南は小学生でスターダムに入門。学生生活と両立しながらプロレスに打ち込み、吏南はフューチャー王座とともに若手興行NEW BLOODのタッグ王者としても君臨してきた。
「正直、この1年半くらいはスターダムの本戦よりもNEW BLOODに力を入れてきましたね」
白いベルトはスターダム2大ベルトの一つだけに、挑戦にあたって「まだ若手のベルトしか巻いてないじゃないか」という批判もあったそうだ。だが若手を引っ張る経験と、その責任感で成長してきたという自信が吏南にはあった。
タイトルマッチが決まると挑戦者と舌戦、痛いところを徹底的に突いた。記者会見やリング上だけでなくSNSでも攻撃の手を緩めない。そうすることで試合のテーマをファンに伝えていったのだ。
「フューチャーに挑戦してくる選手は、タイトルマッチが初めてってことも多いので。タイトルマッチは簡単じゃないぞ、挑戦して終わりじゃないぞってことを教えるのもチャンピオンの役目。私も挑戦者として教えてもらったことなので。
それにNEW BLOODは毎回YouTubeで生中継があるから、どうしても“会場に行かなくてもいいや”となってしまう。それをどう生観戦してもらうか。選手としては会場で見てほしいから。それに若手興行は目立つチャンスなんだから頑張らなきゃいけない。上の選手に任せっきりじゃなくて、今の若手のレベルを見せないと」
他に誰もやらないから、自分が引っ張らないと。そう言って奮闘することで高校生レスラーは力をつけたのだった。フューチャー王座は昨年10月に失ったが最多防衛記録を樹立。NEW BLOODタッグ王座も12月に奪われた。
ただ、それは広い目で見ると“若手卒業”のタイミングでもある。今年に入ると団体トップの一角と言える安納サオリに勝利して白いベルトへの挑戦権を掴んだ。安納はこのタイトルの2代前のチャンピオンだ。
「勝つ自信しかないし、私がベルトを獲ることでスターダムの景色が一気に変わると思う。それくらいフューチャー、NEW BLOODのチャンピオンとして過ごしてきた時間は大きかった。そこでつけてきた勢いが本物だってことを証明しますよ。若手の選手たちには“お前らもここまでこれるんだぞ”って言いたいし、今のトップ選手には“油断してんじゃねえぞ”って」