- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
「キム選手の気持ちは手に取るようにわかる」試合2週間前まで井上尚弥とスパーをしたパリ五輪代表・原田周大が見た「計算し尽くされたKO劇」
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/01/29 17:01

井上のスパーを体験した原田には、「下がりたくて下がっているわけではない」キムの気持ちがよくわかったという
スパーのたびに違う動きでくる
「スパーするたびに変わるんですよ。前回は遠い距離だったのに、今回は近いのかって。テレビで見ている以上に引き出しが多くて、驚きました。僕とスパーするときは、いつも動きを変えながら練習していました」
思い返すと、合点がいくことも多い。フレキシブルに戦い方を変える練習は、どのようなケースにも対処するためのものだったのだろう。対戦相手が変わる事態までは想定していなかったかもしれないが、結果的にそれが試合でも生きていた。
キムの気持ちが手に取るようにわかった
1月24日の防衛戦はラウンドが進むにつれて、原田にはチャレンジャーの気持ちが手に取るように理解できた。3ラウンドになると、果敢なファイターとの触れ込みだったキムもほとんど前に出られず、後退するシーンが目についた。だがきっと、下がりたくて下がっていたのではない、と原田はいう。
ADVERTISEMENT
「手を出したくても出せなかったのかなと。ジャブを突くと、カウンターを合わされていましたから。そうなると、怖くて余計にパンチが打てなくなってきます。少しでも見てしまうと、プレスが来るのでどんどん下がってしまう。ステップのフェイントも速いので、パンチが来ると思って、また後退。
気づけば、どこに逃げても、尚弥さんの距離になっているんです。こっちが踏み込むと当たらないけど、向こうが踏み込めば当たる。僕もそうでしたが、本当に逃げ切れない。3ラウンドのキム選手は、まさにそんな感じでしたね」
フィニッシュへの伏線
4ラウンドの序盤にはフィニッシュへの伏線があった。コーナーに追い詰められた挑戦者が、回って逃げようとしたときだ。原田の脳裏には、ほろ苦いスパーリングがフラッシュバックした。
「僕も、逃げ道を防ぐような左フックを3連発でもらいましたから。キム選手も分かっていても、かわせなかったのかもしれません。その前に左のボディブローを効かされ、足の動きも鈍っていましたし、ずっと尚弥さんの射程範囲でした。それにあのフックは予想以上に伸びてくるんですよ。僕はバックステップでかわせると思った瞬間、もらっていました」