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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「キム選手の気持ちは手に取るようにわかる」試合2週間前まで井上尚弥とスパーをしたパリ五輪代表・原田周大が見た「計算し尽くされたKO劇」
posted2025/01/29 17:01
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Takuya Sugiyama
1月24日の世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチ。原田周大は、これまでとは違う視点で井上尚弥の試合をじっくり見ていた。57kg級のボクシング日本代表として、パリオリンピックに出場した原田が注目していたのは、挑戦者キム・イェジュンの戦い方である。
左構えでスタートしたスイッチヒッターの韓国人が試合開始からいきなりプレスをかけたかと思うと、あっという間に状況は一変していた。
あのジャブは、見ている以上に速いし痛い
「(キムは)最初からガンガン行くのかと思っていたのですが、行けなかったのでしょうね。前に出たくても、出られなかったのかもしれません。尚弥さんのジャブで、うまく距離を取られていましたから。
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あのジャブは上に来るのか、下に来るのか、分からないんです。こっちがジャブを出そうとすると、鋭く踏み込んできて、逆に強いジャブを合わされるので。見ている以上に出入りが速いし、痛いんですよ」
しみじみと話す言葉には実感がこもる。昨年12月、大橋ジム、そしてNTTドコモの映像配信サービス「Lemino」とサポート契約を結んだ現役トップアマの原田は、昨年11月から1月にかけて、スパーリングパートナーの一人として、横浜市内のジムで何度も井上と拳を合わせていたのだ。
2ラウンド目にはもう見切られてしまう
1日5ラウンド。約2カ月半で計7回も世界チャンピオンと必死で向かい合った。だからこそ、“モンスター”に挑んだキム・イェジュンの心理も想像できる。
「2ラウンドは面食らったと思いますよ。尚弥さんは一気にギアアップしましたから。足を使ってスピードを上げ、どんどん強いパンチを打ち始めました。ここからはジャブの差し合いはしないんだなって。対峙する相手からすれば、もう見切られたのか、と思ってしまいます。急にテンポが上がるので、カウンターで合わせるのも難しかったはずです」
原田にも思い当たる節があった。初めて拳を交える井上には、原田が苦手とするパンチなどを知られているはずがない。それなのに気づけば、狙いすましたようにそのパンチが飛んできたのだ。