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「キム選手の気持ちは手に取るようにわかる」試合2週間前まで井上尚弥とスパーをしたパリ五輪代表・原田周大が見た「計算し尽くされたKO劇」 

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杉園昌之

杉園昌之Masayuki Sugizono

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2025/01/29 17:01

「キム選手の気持ちは手に取るようにわかる」試合2週間前まで井上尚弥とスパーをしたパリ五輪代表・原田周大が見た「計算し尽くされたKO劇」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

井上のスパーを体験した原田には、「下がりたくて下がっているわけではない」キムの気持ちがよくわかったという

尚弥さんはいきなり来る

「スパーの1ラウンド、尚弥さんは流しているのかなと思ったのですが、そうではないんですよ。僕のクセや弱点を見極めていたんだと思います。2ラウンド目から僕が苦手とする右のオーバーハンドが来て、苦労しました。もしも8オンスのグローブだったら効かされていましたね。14オンスで良かったです。

 尚弥さんは急に来ますから。徐々にではなく、いきなりです。だから、こっちも戸惑う。キム選手を見ていても、そんな印象を受けました」

 今回のタイトルマッチは一度延期されていた試合の13日前に対戦相手が急きょ変更となり、井上にとっては対策や準備の時間も十分とは言えない状況だった。アジア競技大会、世界選手権、オリンピックと国際舞台で戦ってきた原田は、そんな中で見せた井上の柔軟性の高さに脱帽していた。

トップアマのような柔軟性

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「すぐに対応しているように見えました。プロの場合、試合が決まると、対戦する選手の動きなどに合わせて練習していくので、直前に相手が変わると難しいと思うのですが、尚弥さんは違いました。トップアマと同じような感覚を持っているのかなと。

 アマチュアの場合、トーナメントの大会が多く、相手が誰になるのか分からないので、さまざまなパターンを考えて対策するんです。それに近いのかもしれません」

 そもそも、原田がスパーリングパートナーの一人に選ばれたのは、当初、対戦予定だったオーストラリア人のサム・グッドマンにスタイルが近かったからだ。原田自身が映像で確認しても、構えも戦い方も似ていたという。ただ、本人は“仮想グッドマン”のつもりはなく、ジムのリングでは当たり前のように自らのスタイルを貫いた。

 一方、井上は毎回、違うテーマを持って取り組んでいるように見えたという。出入りが多い日もあれば、接近戦でぐいぐいとプレスをかけてくる日もあった。あらゆるシチュエーションを想定しているようだった。

【次ページ】 スパーのたびに違う動きでくる

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