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野球クロスロードBACK NUMBER
「バットが変わった高校野球で時代を制したい」スモールベースボール偏重は危険?…“150キロトリオ”で甲子園準優勝の名伯楽が「長打は正義」と語るワケ
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2024/12/02 06:01
名門・仙台育英を率いる須江航監督。来春のセンバツを逃し3季連続で甲子園から遠ざかるが、見据える先は「飛ばないバット」時代の理想像だという
優勝した京都国際はチーム打率が3割2分4厘に対し長打が10本とバッティングが光った一方で、6試合を戦い盗塁は1ながら犠打は20と堅実さもあった。準優勝の関東一も盗塁は3だったが犠打は17を記録し、チーム打率2割3分で6本しか長打が出なかった攻撃を補った。
須江はこれらを「スモールベースボール」と画一的に論じず、「ダイヤモンド(内野)で展開する野球」と独自の見解を示している。
「新しいバットは直径が細くなった(67ミリ未満から64ミリ未満)ので、『飛ばない』ではなく“芯が狭くなったバット”と言っているんです。そのことが長打の減った要因のひとつであり、ゴロや低いライナーとか打球の角度を下げたり、セーフティスクイズやエンドランといった小技で攻めていく野球が目立つようになりましたよね。それが、このバットが導入された1年目の答えなんだと思います。
じゃあ、これからもそれが王道でいいと決めつけてしまうのは、僕は危険じゃないかと思うんです。だからうちは、勝利と育成を本当の意味で両立する意味でも、ダイヤモンドで展開する緻密さと外野の頭を越えていくような長打を掛け合わせた、ハイブリッドの野球を目指したいんです」
「飛ばないバット」時代に「長打は正義」と謳う理由
今年の秋を迎えるにあたっても、「長打は正義」と謳う須江は手応えを感じていた。
練習試合の数は例年通りながら、主砲の川尻が“芯が狭くなったバット”で10本以上のホームランを放つなど、野手の総ホームラン数は「過去最多」なのだという。戦術面においても、得点圏でバントやスクイズではなく強攻策に打って出ても得点率は高くなった。チーム内での実戦では山口廉王、佐々木広太郎、武藤陽世、内山璃力と150キロ前後のストレートを誇る3年生投手陣、左のサイドスローといった変則ピッチャーなど、様々なタイプと数多く対戦し攻略してきたほど、須江が言う“正義”が体現されてきていた。
その野球に迷いはなく、東北大会で潔く散ったのは、須江には変革への揺るぎない信念があるからである。
周囲からの批判を恐れず「時代を制していきたい」のだと声高に宣言できるのは、須江が実績を作った経験があるからだ。