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野球クロスロードBACK NUMBER
「バットが変わった高校野球で時代を制したい」スモールベースボール偏重は危険?…“150キロトリオ”で甲子園準優勝の名伯楽が「長打は正義」と語るワケ
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2024/12/02 06:01
名門・仙台育英を率いる須江航監督。来春のセンバツを逃し3季連続で甲子園から遠ざかるが、見据える先は「飛ばないバット」時代の理想像だという
「まずは、斎藤(智也)監督と部長の横山(博英)先生の勝負勘、ベンチワークが素晴らしかったことですよね。それに応えた聖光学院さんの選手たちの粘りも素晴らしかった。あれだけランナーを背負いながらもバッターとしっかり戦えた先発の大嶋(哲平)君とか、選手の勝負強さ、一発勝負で発揮すべきメンタリティがうちよりも上でした」
須江は秋の敗戦を振り返る過程で、「もしかしたら、1点にこだわり、1点を守り抜く野球に徹していれば結果は違っていたかもしれませんね」と呟いた。
1-0の野球。
それは、須江の得意分野でもある。
仙台育英の監督になるまでの須江は、同校の系列である秀光中学で軟式野球部を指揮していた。硬式と違って軟式は、ゴム製のボールの特性上、草野球でも大人気で「飛ぶバット」と呼ばれるビヨンドマックスを使用したところで、滅多に柵越えとはいかない。須江が率いるチームが夏の全国大会で優勝を遂げた2014年。夏の高校軟式の全国準決勝で4日間、延長50回にもわたる大激戦の末、中京が3-0で崇徳に勝利した試合が話題となったように、軟式野球はとにかく点が入らず「ピッチャー有利」とされている。
「全国大会ともなれば、強打と呼ばれるチーム同士が対戦してもヒットは5本くらいしか出ないし、1-0なんてスコアだって当たり前なんです。だからこそ、バント、スクイズ、エンドランを駆使して1点を絞り出し、ピッチャーの配球、守備のポジショニングを緻密に展開して守り抜くといったような野球が僕の体に染みついているんですよ」
須江監督があえて「大味な野球」を見せたワケは?
仙台育英はスモールベースボールの引き出しが多彩で、それを体現できる選手たちもいる。にもかかわらず、須江がそこに固執せず大味な野球も見せていたのには大きな理由がある。
「実績がないので説得力がないかもしれないんですけど」
新チームに関してそう恐縮しながらも、須江が語調を強める。
「バットが変わった高校野球で、仙台育英は時代を制していきたいんです」
今春から「飛ばないバット」が導入されたことで、夏の甲子園では金属バットが導入された1974年以降では最少となる7本しかホームランが出ず、その分、小技を駆使した野球を高い次元で発揮できたチームが上位に進出した印象が強かった。