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メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
大谷翔平の盗塁「パリ五輪100m金メダリストと比べて見ると…」プロ野球スプリントコーチが見た“本当のスゴさ”…エンゼルス→ドジャースでも進化
text by
秋本真吾Shingo Akimoto
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/30 11:06
春季キャンプでスプリントトレーニングを行う大谷翔平選手。今季、これほど盗塁を決めることができた「走りの進化」はどこにあったのか
ただ、当然同じようなトレーニングは私も日本のプロ野球選手たちに施しています。
しかしながら実際は何が起きるかと言うと、器具を使って構えて「じゃあ1本、映像を撮ってフォーム確認をしましょう」と言ってやった時は、プロ野球レベルの選手の運動能力なら、みんなめちゃくちゃいいスプリントで走れるんです。でも、実際にピッチャーを置いて、デモンストレーションで「盗塁をやってみよう」となると、ほとんど全員、フォームが崩れます。最初に見た時はやっぱり「実戦の動きになるとフォームに意識がいかずに、『盗塁を成功させないと』という焦りから全く別の動きになってしまうんだな」と思いました。
大谷選手の盗塁に感じた「本当のスゴさ」
おそらく大谷選手が「盗塁に力を入れよう」と考えたのはヒジの手術が決まって、今季の投手登板ができなくなることが分かった昨秋以降のはずです。そこからはそれほど時間はなかったハズなのに、その進化を春には身につけられている。
これがすぐできる選手と時間がかかる選手の差は、日々「このトレーニングが野球の何に活きるのか」を理解してやっているかどうかだと感じています。プロ野球選手は自分の打撃や投球の映像は繰り返し見る選手も多く、トレーニングがどの動作に繋がるか理解しやすい。一方で、トップ選手であっても走塁や盗塁は感覚でやっていて、自分の走りの映像を全然見ないような選手も実は多いんです。そうなるとどんなにスプリントのトレーニングをしても、実際の野球の動作になかなかイメージが繋がらないんです。
大谷選手はスプリントのトレーニング段階から、それを実際に試合の走塁イメージと繋げて練習ができていたのだと思います。コーチの立場からすると、いい動きができるだけではなく、短期間でそれを本番の動作に的確に繋げられるその「再現性」こそ最も恐ろしい能力だなと感じました。
でもよく考えると、打者として何シーズンもホームランを量産しているわけですから、長いシーズンの中でスランプに陥っても、そこから都度、バッティングフォームをベストに持っていく「再現性」の能力は高いに決まっていますよね。そのアスリートとしての能力が十二分に発揮されたのが今季の盗塁だったのだと思います。