「僕の場合は周りにだいたい自分よりもいいピッチャーがいて、その人との差をどうやって埋めようか考えてやってきたんです。高校のときも1つ上に歳内さんがいましたし」

　岡野は藤浪や大谷を目の当たりにしても、あきらめるのではなく、どんなにゆっくりとしたペースであっても追走することを選んだ。

「今すぐには無理でも、大学を卒業したときにはプロに行きたいという気持ちは芽生えていました」

大谷にLINE「久しぶり、覚えてる？」

　青山学院大に入学した後、岡野は1年春から登板機会を与えられる。そして2年春からは早くもエースの座を射止めた。しかし、そこからは勝ったり負けたりを繰り返し、2年秋には2部降格も味わっている。球速は147キロまで上がったが、まだプロの世界は見えてこなかった。

　大学時代、岡野は一度だけ「追いつきたい」相手にすがったことがある。その相手とは、もちろん大谷である。

「僕が大学4年生（2016年）のとき、大谷は日本シリーズに出ているんです。あの頃、ダルビッシュさんと一緒にトレーニングをしたりしていて、すごく体がでかくなっていた。なんでだろ？　と思ったんです。そうしたら試合中、変な色のドリンクを飲んでいたので、自分なりに調べてみてだいたいわかったんです。でも、それをどうしても本人に確認したくて」

プロ4年目（2016年）の大谷翔平。日本一に輝くシーズンである　©BUNGEISHUNJU

　日本代表で一緒になったとき、岡野は大谷とLINEの連絡先を教え合っていた。ただ、大学生になってからは一度も連絡したことはなかった。

「無視されたら恥ずかしいなと思ったんですけど、知りたいという気持ちが強過ぎて。返ってくるかわからないですけど、一か八か送ってみたんです。僕からしたら、かなり思い切りました。大谷が打ったあとの試合だったので『ナイスバッティング』『久しぶり。覚えてる？』みたいなことから入りつつ、『あの飲み物、何？』って。そうしたらすぐに返ってきました。けっこう詳しく教えてくれましたね。けど、それよりも深いことを聞こうとしたら、ダルビッシュさんもお金をかけて専門の人を雇っているのでそこまでは教えられないみたいな感じで。ただ、飲み物だけは確認できました。最後に『また聞きたいことあったら教えてね』って送って、『いつでも』みたいな感じで終わりました」

　岡野が大谷を頼ったのは、それが最初で最後だ。〈つづく〉

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「マジか…」わずか4年で戦力外通告……続きでは、岡野祐一郎の現役引退までを綴る。