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「俺らもプロに行けるかも…感覚がバグる」ドラフト“史上最多”6人指名の富士大ってどんな所? 岩手の奥地「ポツンと一軒大学」を訪ねてみた!
posted2024/12/17 11:02
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph by
JIJI PRESS
「冬場に外で練習できないほうが、じつは有利なんです」
オリックス1位の麦谷祐介(外野手)、広島2位の佐藤柳之介(投手)をはじめ、ドラフト会議で史上最多の6選手を指名へと導いた富士大学野球部監督の安田慎太郎は、こともなげにそう言った。
一年中、屋外で練習できる“デメリット”
発言の意図を測りかねていると、手品の種明かしをするように、安田は淡々とした口ぶりでその理由を説明した。
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「フィジカルを重視する僕のやり方と、この地域の条件がマッチしているんだと思います。もし一年中屋外で練習ができてしまったら、やっぱりみんな外でやりたい。バッティングもノックも楽しいですから。でもそれって、見方を変えればトレーニングというよりも“野球をしている”だけ。
寒いなかでやっても効率は落ちるし、雪かきなんてしたら個々人の練習時間もかぎられてしまう。でも、最初から外が使えないとわかっていて、口酸っぱくフィジカル作りの大切さを伝えていれば、練習=ウェイトだと意識が変わっていくんです」
とにかく徹底的にフィジカルを強化する――。その意識を植え付けるために、安田は屋内練習場の入口付近にトレーニング器具を揃え、「選手たちが最初に目にするのがウェイトの器具」という環境を整えた。ボディビルダーしか使わないような、50kgのダンベルまで用意するほどの徹底ぶりだ。
「実際に使わなくても、日常的に目にしていれば『やれるかもしれない』と脳が錯覚する。他の練習にしてもそうです。プロに行くために、『無理だ』というマインドを『できる』に変える。選手たちのリミッターを外す。でも、決して嘘をついているわけじゃないんですよ。少なくとも、僕は本気で行けると思って声をかけていますから」
ふと、大学からほど近い「さかえや」でオススメのメニューを教えてくれた野球部員の言葉が頭をよぎる。ドラフトで6人もの先輩が指名されたことについて尋ねると、まさに「感覚がバグってきますよね。もしかしたら、俺らも行けるんじゃないかって……」と話していた。
安田の言葉を借りると、雪でグラウンドを使えないことは「定数」だという。動かしようのない環境的事実を無理に動かそうとしない。あくまでも重要なのは、工夫次第で動かすことができる「変数」の部分なのだ、と。