オリンピックPRESSBACK NUMBER
「乗っていないと言うこと聞かない」愛馬と“初老”タッグで奇跡のメダル…“初老ジャパン”大岩義明48歳は苦境でも「ロスにも挑みたい」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byAFLO
posted2024/09/01 11:04
パリ五輪、相棒の「グラフトンストリート」と人馬一体の飛越を見せる大岩義明
「このパリオリンピックが4人でできる最後のチーム戦だという覚悟は持っていました。ただ、メダルを獲得できた今、この状況を何とか変えられないのか、という思いが全員にある。僕自身としては、4年後もメダルを獲れるかもしれないという状況であれば、当然やらなければいけないし、やりたい。このチームの一員としてロスに挑みたいなという気持ちになっていますが、逆に誰かひとりでも欠けたら大丈夫かな、と思うところはある」
4年後は52歳。大岩自身の環境やサポート体制もどうなっていくのか不透明だ。
「今回の馬も4年後は20歳になってしまうので、 新しい馬を探すところからもう一度始めなければいけません。経済的にもそうですし、色々な条件が整わなければ難しいのは今の時点で見えている。ただ、メダルを獲ることによって、多くの人に馬術の面白さを知ってもらうきっかけになったと思うので、活動しやすい環境が整うのであれば、違う色のメダルを目指すということは、もちろんやってみたいという思いはあります」
五輪での成功で馬術の魅力を伝える
馬術が文化として根付いている欧州に比べて、日常的に馬と接することが難しい日本との環境の違いは実感している。だからこそ、日本で注目度が高い五輪でメダルを獲ることの意義を信じ、志を貫いてきた。
「ヨーロッパでは普通の家の庭にポニーがいたり、 道路を馬が歩いてるのは日常の光景なんです。今回は競技場がベルサイユ宮殿でしたが、例えばイギリスの大きな大会はお城や宮殿、大きなお屋敷で開催される。その場所に行くことがすごく名誉なので、選手はもちろん、馬のオーナーになりたいという人も多い。自分の馬が各地の大会に出るのを追いかけていく、という楽しみ方もあるんです。競技以外でもホビーとして乗馬をする人やハンティングを楽しむ人もいる。ベースが違うというか、文化が違いますよね。
日本ではやはり、乗馬クラブに行くくらいしか方法がないし、入りの部分のハードルがものすごく高いと感じます。今回、馬術の魅力を伝えることが出来たのは凄く嬉しいですし、状況を少しでも変えられたらと思う。文化が変わるのは短期間では難しいですが、例えば子どもたちが気軽に馬と触れ合えるような場所だったり、入口を広げていきたいという思いはあります」
まだ道半ば。天命を知る五十代を前に、千軍万馬の強者はなお先陣に立ち続ける。
<第1回から読む>