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「乗っていないと言うこと聞かない」愛馬と“初老”タッグで奇跡のメダル…“初老ジャパン”大岩義明48歳は苦境でも「ロスにも挑みたい」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byAFLO
posted2024/09/01 11:04
パリ五輪、相棒の「グラフトンストリート」と人馬一体の飛越を見せる大岩義明
「あと何本差があるとか、相手が何本落としたらどうだとか、そういう情報は一切知りませんでした。自分が減点ゼロで帰って来る以外、他にできることはない。無事に走行が終わった後ガッツポーズはしたんですが、この時は結果を知らなくて、入退場門のところで戸本選手から『大岩さんメダル獲れましたよ!』って声を聞いて、実は泣いてしまったんですけどね……」
4人全員の手にメダルが
大岩と「グラフトンストリート」は減点0.40というほぼ完璧な走行。当日朝に北島がまさかのリタイアというアクシデントをはね退けて、日本馬術では92年ぶりの五輪メダル獲得という快挙を掴んだ。20点の減点がなければ、メダルの色は銀だったかもしれない。しかしそれ以上に、大きな宝物を得た。通常なら出場した選手分の3個しか授与されないメダルが、北島がリタイアしたことで急遽出番が回ってきたリザーブの田中の分も合わせて4個、授与されることになったのだ。
「僕が最初にヨーロッパに行って20年ぐらいで、他の選手たちが10年くらい。同じ大会に出ることも多く、お互いにその苦労をわかっている仲間です。誰かひとりはリザーブにならなければいけないのが辛いところではあったんですが、終わってみれば馬の故障で人が代わり、リザーブが入った。リザーブが入ると普通はメダルなんか届かないですが、 日本チームは本当に強かったんですよ。減点20でも銅メダルに届きましたから。馬術界の悲願だったメダルに手が届いた上で、さらに4人全員がメダルを持って帰って来られた。これが僕にとって一番嬉しいことです」
金銭面の負担が大きい馬術競技を続けていく環境は依然として厳しい。銅メダル獲得により、北島と田中は所属先からのサポートが延長されて4年後のロス五輪を目指せることになったが、戸本は当初の予定通り9月に帰国することが決まっている。今後どのような形で活動を続けていくのか「初老ジャパン」は分岐点に立たされている。