甲子園の風BACK NUMBER
「神がかっている」甲子園に旋風を起こした大社“雨中の名物練習”昭和デーとは…492球を投げたエース馬庭優太の呟き「不思議な時間だった」
text by
山口裕起(朝日新聞)Yuki Yamaguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/08/20 19:00
甲子園に旋風を巻き起こした大社高校ナイン。準々決勝で神村学園に敗れ、甲子園の土を持ち帰る
8回、適時打を浴びた直後。カバーに回っていた本塁後ろからマウンドに戻る時、ベース付近に落ちていた捕手のマスクを左手で拾おうとした。が、つかめない。雨を吸ったグラウンドにポトリと落ちた。もう握力はほとんど残っていなかった。それでも、「最後は気力を振り絞った」。逆転を信じ、9回まで投げきった。
仲間も意地を見せる。2-8の9回、2番藤江龍之介の内野安打や3番石原の死球などで1死満塁。好機が広がるにつれ、アルプス席の応援に合わせ、バックネット裏の観客席からも手拍子が送られていく。1人また1人と増え、次第に大きくなっていく音が選手の背中を押す。もしかしたら――。
しかし、相手はさすがだった。動じない。最後は内野ゴロで併殺を奪われ、夏が終わった。
出雲大社に参拝。32年ぶりの聖地へ
106回目の夏はまばゆかった。第1回の地方大会から皆勤出場している大社は、全国に15校しかないうちの1つ。選手のほぼ全員が地元・島根の出身。「日が沈む聖地出雲」の周辺で育った。
大会前、全員で出雲大社に参拝した。選手1人ひとりが持つお守りには、神話の舞台でもあるパワースポット「稲佐の浜」の砂が入っている。それをバックにしのばせ、32年ぶりに夏の聖地へ乗り込んだ。
1回戦の相手は、選抜大会の準優勝校で地元兵庫の報徳学園。大会屈指の右腕・今朝丸裕喜の不安定な立ち上がりを狙う。1回に足技を絡めて2点を奪い、流れを引き寄せた。3-1。アウトを一つ取る度に、スクールカラーの紫色がアルプス席で揺れた。
優勝候補を倒し、大社の名は一気に広まった。大会前、目標は「ベスト8」と言っていた選手たちも驚きを隠せなかった。
「いろんな人からおめでとうと言われて。知らない人からも。その反響の大きさに、『俺たちはすごいことをしたんだな』とみんなで言い合っていました」。石原は苦笑いを浮かべた。SNSのフォロワーも一気に増えた。
快進撃は止まらない。
雨中の名物練習「昭和デー」とは
2回戦で創成館(長崎)を延長10回タイブレークの末に5-4で破ると、3回戦は同じく第1回大会から出場する早稲田実(西東京)と顔を合わせた。ともに満員に膨れ上がったアルプス席。試合前から異様な雰囲気に包まれた一戦もやはり、延長11回までもつれた激闘だった。
「神がかっている」。土地柄もあり、勝つたびに、そんな言葉がついて回った。
もちろん、「神頼み」もある。しかし、そこにいたるまでの確かな練習があった。