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「神がかっている」甲子園に旋風を起こした大社“雨中の名物練習”昭和デーとは…492球を投げたエース馬庭優太の呟き「不思議な時間だった」

posted2024/08/20 19:00

 
「神がかっている」甲子園に旋風を起こした大社“雨中の名物練習”昭和デーとは…492球を投げたエース馬庭優太の呟き「不思議な時間だった」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

甲子園に旋風を巻き起こした大社高校ナイン。準々決勝で神村学園に敗れ、甲子園の土を持ち帰る

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山口裕起(朝日新聞)

山口裕起(朝日新聞)Yuki Yamaguchi

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Hideki Sugiyama

 すっかり雨は上がっていた。

 勝利した神村学園(鹿児島)の校歌にあわせて、手拍子が鳴る。一塁側のアルプス席を埋めた大社の大応援団からだった。勝ち負けではなかった。健闘をたたえあう。この夏、100周年を迎えた甲子園球場は、温かいハーモニーに包まれた。

 一塁ベンチ前で大社の選手たちが一列に並ぶ。背番号1の馬庭優太は、顔をくしゃくしゃにした。ナイター照明に照らされた空を見上げ、あふれる涙をこらえていた。

「勝ちたかった。でも、すごく長い夏だったし、すごく楽しかった」。いろんな感情が頭の中を渦巻いていた。

エース馬庭が3番手で救援「俺が流れを変えてみせる」

 その時は、2-2の5回にやってきた。

 無死一、二塁。延長タイブレーク2試合を含む3回戦までの全3試合を1人で投げ抜いてきたエースが、3番手での救援を告げられた。「俺が流れを変えてみせる」。  

 雨の中、小走りでマウンドに向かった。

 球場全体がこの左腕の出番を待っているかのような空気だった。この日一番の拍手で迎えられた。

 ただ、エースの登板は予定より少し早かった。

 主将で捕手の石原勇翔は言う。

「5回までなんとか馬庭以外の投手で乗り切って6回から馬庭に託す。そんなゲームプランを描いていました」

「疲れはなかった」と言う馬庭も、疲労の色は隠せなかった。初球の131キロが浮く。2球目の134キロも外に外れた。追い込んでからもファウルで粘られる。7球目。打ち取ったと思われた打球は、併殺を狙った二塁手の失策に。1点を勝ち越された。

逆転を信じて9回まで…もしかしたら

 7回に四球から4連続長短打を浴びて4点を失い、8回にも1点を奪われた。最速141キロの直球は影を潜め、変化球も浮く。昨夏4強の神村学園は甘い球を逃してくれなかった。

「粘れなかった」と肩を落としたが、限界にきていた。

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