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甲子園の風BACK NUMBER
「なめんな!とは怒りますよ」高校野球“まさかの番狂わせ”…大社高・石飛文太監督(42歳)が前日、取材記者に語った「こんな監督でよく勝てるなと…」
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph bySankei Shimbun
posted2024/08/18 17:04
石飛文太監督(42歳)。32年ぶりに大社高校を夏の甲子園出場に導いた
「若い球……って、どんな球なんだ?」
決してだらしない雰囲気というわけではない。それぞれが打撃、守備、ストレッチに真剣に取り組んでいる。だが、やはり謎は解けない。なぜこうも強豪校に見えないのだろう、と。
現地・島根のライターによれば、地方大会での優勝もサプライズだった。大社は島根有数の伝統公立校で優勝候補の一角ではあったものの、本命はあくまで、地元の強豪私立である益田東や石見智翠館。今年の甲子園行きは難しいと目されていた。だが、強かった。準々決勝から3試合、エース馬庭優太がすべて完投した。
「こんな監督でよく勝てるなと」
練習を終えた石飛に尋ねる。早実との大一番の前日。練習は終始、緩やかな空気だった。選手たちに檄を飛ばしたりしないのだろうか。
「このチームはもう怒らないです。今は嫌われたくないですもん。新チームになったら、また怒りますけど。甲子園でもね『いけー!』『打てー!』しか言ってないんで。創成館とのタイブレークでもそうでした。叫び続けるだけ。これ、本当です」
選手たちの力を引き出す確たる方法がある、というわけではなさそうだ。その戸惑いを察したのだろう。石飛がこう続ける。
「だからね、ようこれで勝てるな、と思います。こんな監督でよく勝てるなと。不思議なチームですよね、本当に」
この時点ですでに、報徳学園、創成館を下している。強豪に勝つための戦い方はあるのか。
「そんなことは高校野球で関係のないことです。子どもたちがどう感じるか、ということがすべてですよ。結局、私も怒るときは怒るんですよ。その中に、親目線があるかないか、だと思います。子どもに怒ってばかりじゃダメですよね。私自身、子どもができてはじめてわかったことなので。それがベースにあって、自分自身が勉強した野球のことを少し付け加える、みたいな感じです。
試合中も、もっと考えてやりたいんですけどね。甲子園だと特にテンションが上がっちゃって『いけー! たのむー!』しか出てこない。ベンチの声、内野には届くらしいので。たぶん、大社はいわゆる強豪校というチームではないです。みなさんが想像しているような、監督と選手の間柄じゃない」
「なめんな!とは怒りますよ」
選手との接し方にヒントがあるのだろうか。先ほどの「打球が若くないぞ」を聞いた部員の反応を伝える。石飛は声を上げて笑う。「ほらね、そんな風に言われる感じですよ」と続ける。続けてこう質問する。