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甲子園の風BACK NUMBER
「なめんな!とは怒りますよ」高校野球“まさかの番狂わせ”…大社高・石飛文太監督(42歳)が前日、取材記者に語った「こんな監督でよく勝てるなと…」
posted2024/08/18 17:04
text by
田中仰Aogu Tanaka
photograph by
Sankei Shimbun
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前日練習「記者・カメラマン6、7人だけ」
野球ユニフォームは着ている。だが、身体は細く背丈は170cmほど。グラウンドを走り回る姿は、チームをサポートする卒業生にも見える。この人物が、28時間後に早稲田実業を下すことになる大社の監督、石飛文太(42歳)だ。
8月16日15時過ぎ、大阪某所の練習場。記者、カメラマンは合わせて6、7人ほどしかいない、嵐の前の静けさだった。
グラウンドに姿を現したタイミングで挨拶をする。すると本気とも冗談ともつかない独特のトーンで言った。
「もう、十分じゃないですか? 2勝で……」
8月11日の初戦に優勝候補の一角だった報徳学園、前日の2回戦で創成館を下した。翌日には、早稲田実業戦が控えている。練習の強度を上げることは考えづらいが、その事情を考慮しても不思議である。甲子園ですでに2勝している高校、という雰囲気が伝わってこないのだ。「代打、どうだった? やっぱり緊張した?」。聞こえてくる選手とチーム関係者の会話も影響しているかもしれない。
そもそも甲子園出場もサプライズだった
名刺交換を終えると石飛は、すぐさまグローブを持って外野へ駆けていく。バッティング練習の守備をするためである。選手たちに聞けば、よくある光景らしい。さらには、チームで最も声を出している人物も石飛である。そして、選手がいい当たりを見せれば「明日、代打あるぞ?」と褒め、ホームランを打てばそのボールを他の選手と同じように目で追う。あるいは1年生のバッティング練習時には、石飛のこんな声が飛ぶ。
「おいおい1年生……素振りしてるか? してないだろうな。若くないんだよ、球が。球に若さがない!」
球が若い……の解釈に苦しんでいるのは私だけではなかった。目前を部員2人が小走りしながら話していた。