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あの「鉄棒2回落下」の中国選手は国内でどう報じられた? バド台湾戦は中継ナシも物議の開会式は検閲スルー…中国五輪報道に見た「変化の兆し」
posted2024/08/06 17:01
text by
奥窪優木Yuki Okukubo
photograph by
JIJI PRESS
7月26日夜、北京在住の40代女性・戴伶麗さんは、パリ五輪の開会式のテレビ中継を家族3世代で見ていて仰天した。
「男性パフォーマー同士のキスや、熱い抱擁を交わす男女3人組が意味深な笑みを浮かべて密室に消えていくシーンが放映されたんです。同性愛がタブー視されている中国で、しかも国営のCCTVでこうした映像が放送されるのは異例のことで、私は思わず息子の目を覆いたくなりました」
ほかにも同開会式では、フランス革命をモチーフにしたような場面や、表現の自由の尊さを主張するような演出が随所に見られたが、それらも中国でそのまま放送されたことに、戴さんは驚いたという。中国では、民主化への気運を刺激する恐れのある言論や映像は検閲の対象であるからだ。
3年前の東京五輪の際と比べても違いは歴然としている。
日本語の五十音順で進められた開幕式の入場で、台湾の出番は105番目で、大韓民国の直後だった。しかしこの入場順は、中国にとっては大問題だった。
「ワン・チャイナ・ポリシー」を掲げる中国の圧力により、台湾は「チャイニーズ・タイペイ」という呼称で五輪に参加することを余儀なくされている。その呼称に従った場合、台湾の出番は107番目、チェコの後ろになるはずだった。つまり入場順においては、チャイニーズ・タイペイではなく、台湾という呼称が尊重されていたのだ。
自国のメンツを潰すような入場順に対し、中国国内の一部のインターネット放送局では「自主検閲」が行われ、台湾の入場シーンはオリンピックスポーツについて議論するコーナーに差し替えられた。そして中継の放送が再開された時には、台湾よりよりも入場順が6番手後ろだった中国の入場もすでに終わっており、視聴者から大バッシングを浴びる羽目となった。
中国メディアにおける「五輪報道の変化」
実は今大会、開幕式だけでなく、競技を伝える中国メディアの姿勢にも変化が見られる。
7月29日に行われた体操男子団体の決勝で、中国の蘇煒徳選手が最終種目の鉄棒で2度落下。そこまでは圧倒的なリードを保っていたにもかかわらず、結局この失点を最後まで挽回することができず、日本に大逆転を許して銀メダルとなった。