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あの「鉄棒2回落下」の中国選手は国内でどう報じられた? バド台湾戦は中継ナシも物議の開会式は検閲スルー…中国五輪報道に見た「変化の兆し」
text by
奥窪優木Yuki Okukubo
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/06 17:01
体操男子団体の最終種目・鉄棒で2度落下し、日本に大逆転を許した中国の蘇煒徳。これまでなら国内から激しいバッシングが常だったが…?
筆者はこの時、蘇選手やチーム首脳陣は、自国メディアからさぞかし激しいバッシングにさらされることだろうと思っていた。中国の代表選手やチームは、五輪で好成績を残せば文字通りの国民的英雄の称号が与えられる一方、期待を裏切った選手には国賊のような扱いが待っていることも多かったからだ。
ロンドン五輪の110mハードル男子決勝で、金メダルの期待を背負いながらもスタート直後に転倒した劉翔しかり、東京五輪の混合ダブルスの決勝で水谷隼・伊藤美誠ペアに敗れた許昕・劉詩雯ペアしかり、北京冬季五輪でフィギュアの団体女子シングルに出場して相次ぐ転倒に見舞われた朱易しかりである。
蘇選手の2回目の失敗の時点から、中国のSNS上では誹謗中傷の声も飛び交っていた。
これまでは、このように先行するSNSなどでのバッシングに乗じるように、批判報道を行うのが中国の五輪報道のひとつのパターンだった。ところが翌日になっても、蘇選手やチームをむやみやたらと叩く報道はあまり見られなかった。国営新華社通信は、「相次ぐミスで、みんなの夢は徹底的に砕かれた」と報じたが、怪我をして欠場となった正メンバーに代わり、不調の中での出場を余儀なくされた事情も解説。「彼一人の責任ではない」と蘇選手を擁護することもわすれなかった。さらに、大手ニュースサイトの鳳凰網も、SNSなどでの過剰な批判に対して釘を刺す記事を配信している。
これまでは選手へのバッシングが常だったが…?
さらに意外だったのは、敵を称賛するような報道さえみられたことだ。
同決勝で、日本の橋本大輝選手が、中国選手の演技を前に口元に指を当てて観客らに静粛を求めた場面や、落下した蘇選手を労う様子を捉えた写真を新華社を含む複数のメディアが掲載し、「これぞスポーツマンシップ」、「まさに王者が持つべき姿」などと持ち上げたのである。
一方で、「相変わらず」だった点もある。4日に行われたバドミントンの男子ダブルス決勝は、東京五輪の覇者である台湾の王齊麟・李洋ペアと世界ランク1位の中国の王昶・梁偉鏗ペアの対戦という好カードだった。結果としては台湾が中国を下し、五輪二連覇を果たした。しかし、中国の主要メディアはこの試合の生中継を行っていなかった。