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競泳・鈴木聡美はなぜ競泳界の「常識を覆せる」のか…東京五輪は代表落ち、恩師も「不器用」「才能がない」と認める33歳がパリの次に目指すもの
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byRyosuke Menju/JMPA
posted2024/08/03 17:00
パリ五輪女子平泳ぎ200m決勝、鈴木聡美の力強い泳ぎ
「とにかく不器用。陸上トレーニングも、ほかの選手がぱっとできることがなかなかできない」
以前、鈴木をサポートしていたトレーナーの岸邦彦氏の言葉にも相通じるものがある。
「どうしても後半ばててしまうレースが続いて、もしかしてと思って『もしかして泳いでいるとき、ずっと力を入れてる?』と聞きました。『そうですけど』と。全身すべての動作に力をずっと入れていたんですね。人間、それはできないことを説明しましたが、監督からパワーが必要、という言葉を聞いたからなんですね。素直なんです」
不器用でも最後にはものにする
愚直と言ってよいほどまっすぐに受け止め、取り組んできた。午前6時半から始まる山梨学院大学のハードな練習に今日まで取り組んできた。学生でも容易ではないメニューをこなす。「不器用」と言う神田監督は、一方でこう語っている。
「でも、時間をかけて最終的にものにする。才能もそんなにないのに、才能のある選手を上回ってきた聡美の姿勢は、大きな意味があると思います」
愚直なまでのまっすぐな取り組みに加え、支えとなるのは「変化を恐れていては伸びないです」と語る姿勢だ。五輪直前の6月になって、ターンする際の動作の改革に着手したこともその表れだ。33歳になってなお地道に重ねる厳しい練習も含め、だから鈴木の言葉は説得力を持つ。
「日々、常識を覆している気がします」
自分に拍手、と言った鈴木だが、別の思いもこみあげている。
誰もが驚くような練習を
「3位まであと少しで、メダルが獲得できなかった悔しさもあります」
「日本記録(の更新)を含め、やれるところまでやってみるのもありかなと思います」
パリで実感したこともある。
「誰もが驚くような練習を積まないと自分を超えられない」
誰もが一目を置く練習をこなしてきた鈴木は、さらなる練習への意欲を示す。
パリもまた通過点であるかのように。