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熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
「交渉能力、監督のコネだ」日本はOAなし、アルゼンチンは“W杯優勝トリオ招集”ブラジル人記者が斬る背景「五輪メダルの可能性は…」
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byKiichi Matsumoto/JMPA
posted2024/07/10 17:01
カタールW杯優勝メンバーのアルバレス。アルゼンチン代表は本気モードでパリ五輪金メダルを狙いに来ている
「もちろんそうだろう。しかし、それでも選手がクラブに『五輪に出たい』と訴え、さらに協会が働きかけて招集を実現した。それほどまでに、彼らは金メダルが欲しいのだ。大岩剛監督も、金メダル獲得を目標に掲げている。しかし、世界にはここまでして金メダルを取りに行く選手、監督、協会関係者がいることを日本のフットボール関係者も知っておくべきじゃないかな」
ブラジルもリオ五輪でネイマールらをOA起用したが
――ブラジル協会は、自国開催の2016年リオ五輪で優勝を至上命題と考え、エースであるネイマールが所属していたバルセロナと交渉した。五輪直前に開催されたコパ・アメリカに出場しないことを条件にネイマールのOAでの五輪出場を実現し、ベストメンバーを編成して初優勝を成し遂げました。今回、ブラジルは南米予選で敗退したのでパリ五輪には出場しないが、ブラジル協会もアルゼンチン協会並みの交渉力を持っていると思いますか?
「かつてのブラジル協会は、かなりの政治力を持っていた。しかし、近年は組織が弱体化しており、それがブラジルのフットボール全体の地盤沈下を招いている。アルゼンチン協会と同じことはできないだろうね」
――日本は、2008年北京五輪でOA選手を使わずに戦って3戦全敗のGS最下位。しかし、この大会に出場した選手の多くがA代表の主力に成長し、2010年W杯でのベスト16入りに貢献しました。日本では「若手の将来的な成長を促すため、OAは招集しなくても良いのではないか」という考え方があります。現に岡崎は「OAが招集されなくて自分が北京五輪に出場できたからその後の欧州クラブ移籍が実現し、成長を遂げることができた」と語っています。
「もちろん、それも一つの選択肢だ。ただし、その場合、対戦相手の多くがOAを招集してチームを強化しているわけだから、上位に食い込むのはかなり困難になる。また、OAを活用して五輪でより多くの試合を経験し、好成績を残すことができれば、出場した23歳以下の選手の成長にも役立つ、という考え方もあると思う」
日本のメダル獲得の可能性が低下したのは…
――今回、日本はOAを招集できず、なおかつ23歳以下の重要な数選手を欠きます。この陣容で、どのような結果を期待していますか?
「メダル獲得の可能性が低下したのは、認めざるをえない。準決勝まで勝ち上がれたら上出来、と考えていいんじゃないかな」
◇ ◇ ◇
我々日本人は、メディアもファンもかなりのお人よしで、物分かりが良いのかもしれない。「(海千山千の)欧州クラブと交渉するのは困難を極める」という山本昌邦ナショナルチームダイレクター(ND)の言葉を受け取り、「JFAもベストを尽くしたはずだから、このようなメンバーになったのは仕方がない」と考えがちなのではないか。
しかしアルゼンチンを始めとする他国の協会はあらゆる手立てを尽くし、結果として欧州クラブに所属するA代表の主力や23歳以下の有力選手の招集を実現している。そのことを踏まえて、チアゴ記者はJFAの交渉能力に疑問を呈しているのである。
ともあれ今後、仮に故障者が出なかったとしても、日本はこのメンバーでパリ五輪を戦うしかない。そして、大岩監督は一度口にした「金メダル獲得」という壮大な目標を掲げたまま戦いに挑むことになる。
フットボールの国際大会では、選手と指導者のみならず、協会、クラブ、メディア、さらにはファンを含む各国の「総合力」が問われる。そのことを、我々はパリで改めて思い知ることになりそうだ。
<第1回からつづく>