近鉄を過ぎ去ったトルネードBACK NUMBER
野茂英雄が報道陣に「撮らないでください」メジャー1年目の夏に起きた異変…記者が見た“トルネードの焦燥”「もう説明を受けたでしょ?」
text by
喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2024/07/11 11:02
日本人史上初の新人王を獲得したメジャー1年目の9月、野茂英雄はブルペンの撮影をやめるように要望。一体、野茂の身に何が起きていたのか
野茂が、グラウンドレベルでの撮影をシャットアウトしてきたのだという。
困ったカメラマンたちは、ブルペンを上からのぞくことができる外野スタンドから、まるでファンのように柵から乗り出すようにして、野茂の投球シーンを追わざるを得なかった。
そのピリピリした空気に気づかなかったのは、野茂がブルペンで投げ始める頃に、ドジャースのチャーリー・ストラッサーというトレーナーが、図解入りで野茂の右手の現状をレクチャーする時間を取ってくれていたからだった。
“フォークマメ”も併発していた
同トレーナーの説明によると、野茂はシーズン当初から、右手中指爪の左側にできた「マメ」に悩まされ続けていたのだという。野茂のフォークは、右手中指をボールの縫い目のところに引っ掛け、人差し指と中指で挟んだボールを抜く際に、その中指でスピンをかける。その独特の投げ方ゆえの“フォークマメ”ができていたのだ。
そのマメが大きくなり、必然的に中指の爪に抵触するのだが、今回はその触れる部分にヒビが入ってしまったのだという。つまり、傷の患部が重なっている珍しい状態で、これではフォークを投げる際に、スピンをかける起動力ともいえる中指が機能しない。
そこでまず、ヒビが入った個所の爪をカット。これが生え揃うまで、当該部分に特殊なケアを行う。カットした部分にはシルクを張り、その上からアクリルでコーティングをする爪保護のやり方は、ボールに指を立てるナックルボールの使い手、トム・キャンディオッティがネイルサロンで学んできたものだという。
「爪が生えてくることに関しては、僕が手助けするわけにはいかないからね」
同トレーナーのアメリカンジョークを関西風に言い換えれば、あとは “日にち薬”(時間が解決する)というわけだろう。
なぜ野茂は黙秘、球団は情報公開?
野茂の爪の現状は把握できた。しかし、だからこそ、野茂は怒っていたのだろう。