近鉄を過ぎ去ったトルネードBACK NUMBER
野茂英雄が報道陣に「撮らないでください」メジャー1年目の夏に起きた異変…記者が見た“トルネードの焦燥”「もう説明を受けたでしょ?」
text by
喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKoji Asakura
posted2024/07/11 11:02
日本人史上初の新人王を獲得したメジャー1年目の9月、野茂英雄はブルペンの撮影をやめるように要望。一体、野茂の身に何が起きていたのか
私にとっては、8月31日が「ドジャース・野茂」のマウンドを、実際に自分の目で、初めて見る機会だった。その27歳のバースデー登板は、右手中指の爪が割れ、メッツ打線を2安打に封じていた8回1死で緊急降板となった。中4日で臨んだ9月5日のフィリーズ戦も、5回1失点の好投を見せていながら、右手中指に入っていた7mmほどの縦割れのヒビの付け根に接する形で、今度は横方向にもヒビが入って降板。本拠地・ドジャースタジアムでの2試合でアクシデントが続いていた。
いろいろ、説明を受けたでしょ?
その“爪問題”に翻弄される中、ドジャースはピッツバーグ、シカゴ、セントルイスで10日間に9試合をこなすという、長期遠征に旅立つことになった。
中4日のローテーション通りなら、ピッツバーグでの9月10日が野茂の登板予定になるはずだった。しかし、遠征出発前、投手コーチのデーブ・ウォーレスから、パイレーツ3連戦で野茂は登板しないことが明かされていた。
ならば、いつ投げるのか? 割れた爪は順調に回復しているのか?
ドジャースは7年ぶりの地区優勝を目指して、ロッキーズとの激しい首位争いを繰り広げていた。しかし、野茂取材をメーンにやって来た私を含めた日本の報道陣たちは、そのデッドヒートは二の次。野茂の“割れた爪”の状態をひたすら追いかけることになる。
野茂がイラつくのも、無理はなかった。
「いろいろ、説明を受けたでしょ?」
怒気交じりに野茂がそう話したっきり、口を完全に閉ざしてしまったのは、ピッツバーグのブルペンで投球練習を行った9月9日のことだった。
野茂が通告した、撮影禁止
4日ぶりの本格ピッチは、中6日へと登板間隔を延ばした同12日のシカゴでのカブス戦に備えてのものだった。復調の姿を捉えようと、日本のカメラマンたちが投球練習を撮影しようとすると「撮らないでください」。