マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
早大“7季ぶり六大学制覇”のウラに異色の「ピアニスト遊撃手」の存在あり…「偏差値75」全国屈指の超進学校出身・山縣秀(22歳)とは何者か?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2024/06/04 17:00
7季ぶりに六大学野球で優勝を決め、胴上げされる早大の小宮山悟監督。久しぶりの快挙の裏には、ある異色の遊撃手の存在が…?
とりわけ、そのスローイングだ。三遊間深い位置からの一塁送球。間一髪のタイミングになることはわかっているだろうに、決して急がない、強く投げようとし過ぎない。それでも、ピシャッと刺してみせるから、プロからの賛辞が絶えないわけだ。
なかなかその通りには守れないだろうが、誰がお手本にしても、決して害にはならない王道のフィールディングだろう。
ライバルとは違うオリジナリティあふれる守備
山縣選手のそれは、その対局にあるように見える。
彼の運動能力の中に搭載されている動きのバリエーションを、その場面、その場面でとっさに、自由に、繰り出して、それで結果に破綻をきたさない。
彼のオリジナリティが構築した「山縣メソッド」だから、真似しようとしても、なかなか真似できない。いや、真似しないほうがよいかもしれない。
山縣のとこに、打球飛ばないかなぁ。自然とそんな待ち方の気分になってしまう、そういうショートストップ。良い意味で、奔放なプレースタイルだから説明不能。10日から始まる「全日本大学選手権」の実戦で、ぜひ本物をご覧いただければ……と思う。
この1月、野球部激励会の会場で、山縣選手とちょっと話したことがある。
全国から高校野球界の腕利きたちが集まる早稲田大野球部で、ショート、セカンドのキーポジションをレギュラーとして守っていることを讃えたら、照れくさそうな笑顔で、「これからの自分には何が求められるんでしょう」……そんな話になった。
「君に期待されているのは、君にできることじゃないかな」
今まで以上に堅実な守り、それに、送りバントに進塁打、セーフティバントにセンター返し。できることの精度を、さらに上げること。
目立たないかもしれないが、欠かすことのできないつなぎ役。
「ああ、なるほどぉ」
「やってやります!」みたいな見かけの威勢の良さはなくても、内面の奥の奥には、「納得」を焚き木とした確かな火がパチパチと乾いた音をたてているように思えた。
ショートストップ・山縣秀が、幼いころからピアノの弾き手であることは、耳にしていた。話題が野球から横に逸れた時、そのことを思い出した。