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「まさか堀江翔太の身に起きるなんて…」ラグビー屈指の名勝負はなぜ生まれた? “心を揺さぶる80分”を完成させた3つの要素とは
posted2024/05/29 11:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kiichi Matsumoto
「傑作」を見てしまった――。
ブレイブルーパス(いわゆる東芝)対ワイルドナイツ(いわゆるパナソニック)のリーグワン・ファイナルは、時の経過を忘れさせ、心を揺さぶられる傑作となった。
24対20、東京は府中市に本拠を置くブレイブルーパスの初優勝。拮抗したスコア以上に、密度の濃い、豊潤な内容の試合だった。
傑作の証左として忘れてならないのは、5万6486人の観衆が試合とともに呼吸をしていたことだ。ラインブレイクに歓声が上がり、ブレイブルーパスの巨漢、ワーナー・ディアンズの激しいタックルに驚嘆の声が上がった。みんな、心を奪われていたのではないか?
私の感覚としては、2019年のW杯で日本のファンは極上の味わいを覚えたのだと思う。コロナ禍にあっては声出しが制限されていたが、あの禍々しい記憶が遠いものとなりつつある2024年、試合と一緒に呼吸する観客は傑作を成立させる一部になっている。このファイナルを現場で見られた人は、本当に幸せだった。
「傑作」となる3つの条件
ラグビーの試合が傑作となるには、いくつかの要素、条件がある。
ひとつは、「目を見張るようなアタック」だ。
この日、アタックの主役は両軍のウィングだった。ふたつのトライを奪ったブレイブルーパスのジョネ・ナイカブラ、ワイルドナイツのマリカ・コロインベテの両翼の獰猛とも呼べるような走りは圧巻だった。
前半38分、ナイカブラの独走をコロインベテが追いかけた「マッチレース」には、驚嘆するしかなかった。結果的にコロインベテのイエローカードにつながってしまったが、ふたりのあのスピードは目に焼きついて離れない。
さらには両軍アタックにおけるセンタークラッシュ、それに対するディフェンスなど見るべきものが多かった。そして特筆すべきは、ブレイブルーパスの原田衛(慶応大出身)、佐々木剛(大東大出身)といった「売り出し中の中堅」が目立つ機会が多かったのも、代表キャンペーンのことを考えると好材料だった。