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「まさか堀江翔太の身に起きるなんて…」ラグビー屈指の名勝負はなぜ生まれた? “心を揺さぶる80分”を完成させた3つの要素とは 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2024/05/29 11:00

「まさか堀江翔太の身に起きるなんて…」ラグビー屈指の名勝負はなぜ生まれた? “心を揺さぶる80分”を完成させた3つの要素とは<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

審議の行方を見守るリーチマイケル、松田力也、堀江翔太。トライの取り消しにつながったのは、この日で引退する堀江のパスだった

 2007年のW杯準々決勝、大本命だったニュージーランドはフランスの前に沈んだ。フランスの逆転トライにつながるアタックでは、ダミアン・トライユからフレデリック・ミシャラクへの微妙なパスがあった。映像で見ると、たしかにスローフォワードに見えなくもない。トライから遡って3フェイズ以内のプレーだから、いまだったらTMO対象のプレーだ。しかし、トライは認められた。

 これがニュージーランドにとっては、大きなトラウマになった。この試合に出場していたダン・カーターは、神戸製鋼でプレーしていた時代、私のインタビューに対して、

「あれは、スローフォワードだよ。間違いない」

 と話した。穏やかで紳士的なカーターが、唯一シリアスな表情を浮かべていたのが忘れられない。

 これは「見逃された側」のエピソードだが、日本でも1985年の大学選手権決勝、同志社対慶応戦で、いまもって忘れがたいスローフォワードがあった。

 同志社の3連覇を阻む慶応のトライ! と思った瞬間、斉藤直樹レフェリーは慶応のキャプテン、松永敏宏のパスをスローフォワードと判定した。慶応は敗れた。後年、松永は私のインタビューにこう答えた。

「あれは、スローフォワードじゃありません。間違いないです」

 単純なハンドリングエラーのひとつ、スローフォワード。しかし、そのプレーが人の人生に影響を及ぼすことがある。

 今回は「ミスター・ワイルドナイツ」であり、日本代表の勃興に多大な貢献を果たしてきた堀江翔太が、その歴史の一部に組み込まれることになった。

 トライだったら、優勝して引退。最高のフィナーレになっていた。しかし、TMOという文明の利器は、「誤差」を見逃さなかった。

 傑作の誕生に必要な要素である悲劇が、まさか堀江翔太の身に起きるとは――。想像だにできなかった。

 ラグビーは深い。

 傑作の誕生を目の当たりにして、ただただ両軍の選手に拍手を送るばかりである。

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