スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「まさか堀江翔太の身に起きるなんて…」ラグビー屈指の名勝負はなぜ生まれた? “心を揺さぶる80分”を完成させた3つの要素とは
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/05/29 11:00
審議の行方を見守るリーチマイケル、松田力也、堀江翔太。トライの取り消しにつながったのは、この日で引退する堀江のパスだった
そして傑作に必要な次の要素は、「魂のタックル」である。
75分を過ぎてからのワイルドナイツの猛攻に対し、ブレイブルーパスの選手たちは集中力を保ち続けていた。67分の段階で一時逆転された時、主将のリーチマイケルは「ディフェンスで自分ひとりだけ飛び出したり、勝手なことをしないように」とチームメイトに声をかけたという。
現代のディフェンスの要諦は、防御線に凸凹を作らず、面で対峙することである。しかし、終盤になってブレイブルーパスの選手たちは面から「槍」となって相手に突き刺さった。リスクはあった。しかし、それは見る者の心を揺さぶった。
特にすさまじかったのは、身長201センチ、体重117キロの巨漢、ディアンズである。
流通大柏高出身、昨年のW杯でもプレーしたディアンズが見せたのは、まさに魂のタックルだった。何度も起き上がり、そして刺さる。巨漢ディアンズの献身が陶酔を生み出した。
間違いなく、泥臭い「東芝」の遺伝子がディアンズには組み込まれていた。22歳のディアンズのけなげな姿に、今季のブレイブルーパスのチームへの忠誠心やら、チームカルチャーやら、いろいろなことが想起され、強さが凝縮されたような時間だった。
しかしワイルドナイツは、そのディフェンスを破った――はずだった。