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「まさか堀江翔太の身に起きるなんて…」ラグビー屈指の名勝負はなぜ生まれた? “心を揺さぶる80分”を完成させた3つの要素とは
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/05/29 11:00
審議の行方を見守るリーチマイケル、松田力也、堀江翔太。トライの取り消しにつながったのは、この日で引退する堀江のパスだった
傑作が成立する最後の要素は、「悲劇」である。
今回、その主人公となってしまったのは38歳、この試合をもってラグビーから引退する堀江翔太だった。
逆転となるはずだった、ワイルドナイツの最後のアタックも素晴らしかった。堀江からコロインベテへのギリギリのパス、そして右に大きく振ってFB山沢拓也の75分以上戦ってきたとは思えないランニングスキル、そしてトライを取り切った長田智希のキレ。山沢と長田のランは、記者席から見ると、ふたりだけが1.5倍速で動いているように見えた。
そして、トライを取られたブレイブルーパスの選手たちの姿にもまた、心を奪われた。
あの、あのリッチー・モウンガが這いつくばっている。懸命にタックルを続けていたディアンズも倒れ、チームの背骨であるリーチも膝をついている。
死力。オールアウトした姿は痛々しくも、感動的だった。
ところが――。TMOとなった。
ご存じのように、トライの取り消しにつながったのは、よりによって堀江のパスだった。
引退試合に、こんなことがあるだなんて。時にラグビーは、残酷になる。
スローフォワードは、ラグビーの歴史に忘れがたい記憶を残す。