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「“高橋藍の兄”だからサントリーに入れた…とか」“最強の弟”をもつ兄の葛藤…高橋塁が初めて明かす胸の内「それでも僕にはやる選択肢しかない」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySUNTORY SUNBIRDS
posted2024/05/28 17:41
サントリーサンバーズの優勝に貢献した高橋塁(24歳)。来季は弟・藍とチームメイトになる
試合の中盤や終盤、競り合った場面、「ここで抜け出したい」という場面で投入されるのがリリーフサーバーだ。ブレイクを重ねれば2本、3本と続けてサーブを打つことができるが、サイドアウトを取られたり、自身のサーブがミスになれば出場機会はごくわずか。そもそも明確な意図と理由を持って送り出されている立場ゆえ、チャンスサーブではなく攻めに転じたサーブを打つことが求められ、ミスにつながるリスクも高い。
会心の1本を放っても得点につながらないことが多く、ネットにかかれば会場のため息が聞こえる。損な役回りが大きい立場ではあるが、1本のサーブでヒーローになることだってある。
何より、レシーブ・トス・スパイクと一つ一つのプレーが連動するバレーボールにおいて、サーブは唯一の個人技だ。自分次第でいくらでも技を磨き、意識を高めることはできる。ならば実践するのみとトスの高さや精度、打つ位置やヒットポイントを確かめながら「めちゃくちゃ練習してきた」。その成果がこれ以上ない形で発揮されたのが、レギュラーラウンド1位のパナソニックパンサーズとのVリーグ・ファイナルだった。
第1セットは22対16と6点をリードした場面で投入された。ブレイクこそ果たせなかったが、第2、3セットにはそれぞれブレイクにつながるサーブでパナソニックの守備を崩し、サーブと共に磨きをかけて「自信を持って受けた」というディグでも好守を見せた。
サントリーが2シーズンぶりの優勝を決めた後の記者会見で、チーム力の充実を問われた山村宏太監督が例として挙げたのは、塁の名前だった。
「高橋塁選手はほとんど試合経験がなくて、ピンチサーバーの機会もなかった。でもこれまで(リリーフサーバーとして)出ていた選手に代わってコートに入って、ちゃんと結果を出してくれた。藍くんと比較するわけではないですけど、彼も強いものを持っている。最高の場面で、素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれました」
努力が報われ、評価された証でもある。だが、それだけでは満足などしないと笑う。
「一緒に盛り上げていける選手になれるように」
「数名のチームメイトからも『塁、持ってるな』って言われたんですよ。そう言ってもらえるのはありがたいですけど、いやいや、このために努力しましたからって(笑)。ピンチサーバーで成功すると、たまたまだと見られがちですけど、僕は大げさじゃなく、あの1本のサーブ、レシーブのためにずっと練習してきたので。まだまだですけど結果が出せて、何より、今シーズンはずっとユニフォームが着続けられたことも、自分の中では奇跡みたいでした」
5月28日、藍の入団会見には多くのメディアが駆け付けた。
「藍と一緒に盛り上げていける選手になれるように。やっと、ちょっとだけ一歩進んだので、またここから頑張ります」
「高橋藍の兄」ではなく「高橋塁」。一人のバレーボール選手として、もがきながら進んで行く。