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「モデル顔負け」195cmの長身、父はフランス人、偏差値70超の進学校出身…異例ずくめの“慶應ボーイ”五輪へ期待の陸上・豊田兼(21)とは何者か?
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph bySatoshi Wada
posted2024/05/24 17:01
複数種目でのパリ五輪出場を目指す慶大4年の豊田兼。規格外のフィジカルも含め、世界の舞台での大躍進も期待される
わずか0.1秒の修正に過ぎないが、この微妙な匙加減でトータルのタイムが大きく変わってくるのだから、何とも奥深い競技だ。
ちなみに、2001年に為末大さんが47秒89の日本記録を樹立した時は、日本陸連科学委員会の分析によると3.50秒だった。前半型の為末さんは、それほど最初から突っ込んでいたというわけだ。
また、10台あるハードル間の歩数は、為末さんは5台目まで13歩で、6台目と7台目が14歩、8台目以降は15歩だった。豊田の場合、8台目までを13歩、残り2台を15歩でいく。前半が同じ13歩でも、170cmの為末さんと195cmの豊田とでは出力が大きく異なるだろう。
ハードルなしの400mでも「代表級の走力」
豊田は大学対校の関東インカレでは、400mハードルを回避して、フラットレースの400mに出場し、準決勝で自己ベストを大幅に更新する45秒57の好記録をマークしている。つまりは走力自体が格段にアップしている現れだ。五輪でメダルも狙える男子4×400mリレーのメンバーに選出される可能性もある。
今季の豊田は、400mハードルでは初戦の東京六大学対校で49秒38(1位)、静岡国際で48秒96(2位)、そして、セイコーGGPで48秒36(1位)と、1戦ごとに記録を大幅に伸ばしてきている。この伸び幅で、さらに脚の状態が万全なら、日本人3人目の47秒台も、と夢想してしまうが……。代表選考がかかった日本選手権では、どんな記録が出るか楽しみだ。
とはいえ、この種目の日本代表争いは大混戦。
日本代表3枠に対して、豊田の他、ブダペスト世界選手権で準決勝に進んだ黒川和樹(住友電工)と筒江もパリ五輪の参加標準記録を突破している。
さらに、2018年のユースオリンピックで世界一になった出口晴翔(ゼンリン)が社会人になり好調で48秒台に突入。昨年のブダペスト世界選手権に出場した児玉悠作(ノジマ)や東京五輪代表の山内大夢(東邦銀行)といった実績のある選手も控えており、好調の豊田といえども、五輪出場が保証されているわけではない。日本選手権では見る者にとっても息もつけないほどの熱戦が繰り広げられそうだ。