炎の一筆入魂BACK NUMBER
「やりたい野球とやれる野球は違う」投高打低のセ・リーグで粘り強く上位を窺うカープ新井監督が選択した最善策
posted2024/05/20 17:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
「〇度目の完封負け」、「貧打」、「長打力不足」「早打ち裏目」、「記録的得点力不足」……。
新聞紙面やインターネット上に躍る見出しは、今季の広島の攻撃力を指している。5月15日にはプロ初登板初先発のヤクルトの新人松本健吾に完封負けを食らい、今季8度目の無得点試合となった。これは球団ワースト記録となる1956年の27度を大きく上回るペースだという。勝率5割で3位と上々の滑り出しでも、戦績以上に得点力不足がクローズアップされ厳しい声も聞かれる。
ファンがスカッとするような試合をしたい気持ちは、指揮官である新井貴浩にも当然あるだろう。ただ、攻撃力を重視した布陣を敷くデメリットもある。何より無い袖は振れない。開幕3戦目には、長打力不足の解消を狙って獲得した新外国人のマット・レイノルズとジェイク・シャイナーがそろって戦線離脱。オフから描いていたチームづくりのプランは、早々に練り直しとなった。3連覇した時代のような戦力はなく、昨季からの上積みもないに等しい。
「やりたい野球とやれる野球は違う」
攻撃力、長打力が多少落ちても、守備力を固める。それが新井監督が出した現状での最善策だった。昨オフ、侍ジャパンに選出された小園海斗を三塁に回して、より守備力の高い矢野雅哉を遊撃に据えた。10年連続ゴールデン・グラブ賞の名手菊池涼介との二遊間はまさに鉄壁。投手を中心にセンターラインを固め、守り勝つ戦いに舵を切った。
「投手が頑張ってバックもしっかり守って、ロースコアの展開に持っていって、それを拾っていく」
データが語るセ・リーグの“打低”ぶり
プロ野球界全体の投高打低も大きく影響している。得点力が“不足”しているのは広島に限ったことではない。1試合平均での成績を見ると、リーグ全体の“打低”ぶりが分かる(データは5月16日時点)。
◆1試合平均得点
1位 阪神 3.3
2位 巨人 2.5
3位 広島 2.6
4位 ヤクルト 3.9
5位 中日 2.7
6位 DeNA 3.2
◆1試合平均本塁打数
1位 阪神 0.6
2位 巨人 0.5
3位 広島 0.4
4位 ヤクルト 0.8
5位 中日 0.5
6位 DeNA 0.4
広島の1試合平均得点が2.6点なのに対し、2位巨人はそれよりも低い2.5点。1試合平均の本塁打数0.4本は、強打のイメージがあるDeNAと同数だ。ここまでの戦いで順位を大きく左右しているのは、“打低”の差ではなく、“投高”の差にある。