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イチローが憧れ、落合博満が「天才」と評した悲運の名打者…打率3割11回、アキレス腱断裂で「ワシはもう終わった」前田智徳、天才の苦悩
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byKoji Asakura
posted2024/05/23 06:00
イチロー、落合博満が天才と評した広島の名打者・前田智徳。その現役時代を雑誌『Number』に掲載された証言とともに振り返る
山本浩二が惜しんだ才能
<証言4>
無事これ名馬って言うじゃない。前田にそれがあれば、大変な選手になっていたよ。数字にしてもタイトルにしてもね。
(山本浩二/『Number』878号 2015年5月21日発売)
◇解説◇
前田の才能をいち早く見抜いたのが入団時の監督・山本浩二だった。ヒットを打っても首を傾げるなどこだわりが強く、容易に近づけない雰囲気を持っていた前田を「アイツの中に入っていけば心を許すヤツ」と目をかけ続けた。2度目の広島監督在任時の2002年にカムバック賞を獲得、2005年には全試合フル出場を果たし、打率.319、32本塁打、87打点の好成績を残した。しかし前田は2013年の引退に際し「ご迷惑ばかりおかけして、本当にすみませんでした」と山本へ謝罪の言葉を何度も口にしたという。
打撃タイトル三冠(首位打者、本塁打王、打点王)には縁がなかったが、11シーズンで打率3割を記録。アキレス腱断裂後も18年にわたってプレーし、通算打率.302、通算2119安打の成績を残した。十分輝かしい数字に思えるが、それでもカープを代表する名打者が「もしもケガがなければ……」と思ってしまうところに、前田の野球選手としての天才性と悲劇性が表れている。
引退後、解説者に転身した孤高の天才は現役時代と一転して、「隙あらばゴルフの話をしだす」「甘いものが大好き」「やたらとマクブルームを推す」などツッコミどころのある饒舌ぶりで人気を博している。ミスター赤ヘルは秘蔵っ子の活躍に「アイツなりに頑張って、よう喋っとるよ」と、嬉しそうに目を細めていた。