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イチローが憧れ、落合博満が「天才」と評した悲運の名打者…打率3割11回、アキレス腱断裂で「ワシはもう終わった」前田智徳、天才の苦悩
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byKoji Asakura
posted2024/05/23 06:00
イチロー、落合博満が天才と評した広島の名打者・前田智徳。その現役時代を雑誌『Number』に掲載された証言とともに振り返る
右アキレス腱完全断裂の後遺症
<証言2>
あの時、アキレス腱の切れる『ブチッ』という音が大歓声の中からはっきりと聞こえてきた。
(池山隆寛/『Number』499号 2000年6月15日発売)
◇解説◇
1995年5月23日、1回表。神宮球場でセカンドゴロを放った前田は一塁を駆け抜けた瞬間、足を引きずるようにして倒れ込む。ヤクルトのショート・池山の耳にも届いた音の正体は「右アキレス腱完全断裂」の“断末魔の叫び”だった。
このアキレス腱断裂によって前田は長期離脱を強いられたが、影響は身体面だけにとどまらなかった。
復帰後は「ワシはもう終わった選手なんじゃけ」と繰り返し、「やってやろうという前に不安ばかり頭をよぎる」と漏らすこともあった。理想の打撃をストイックに追い求めていたバットマンが強いられた「恐怖心との戦い」。この頃から前田は高い理想を口にしなくなり、目標として「全試合出場」を掲げるようになった。
ただ、シーズン毎にケガや身体の痛みに直面しながらも1996年シーズンから1999年まで4年連続3割を記録。周囲には復活を印象づける活躍を見せていた。