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イチローが憧れ、落合博満が「天才」と評した悲運の名打者…打率3割11回、アキレス腱断裂で「ワシはもう終わった」前田智徳、天才の苦悩
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byKoji Asakura
posted2024/05/23 06:00
イチロー、落合博満が天才と評した広島の名打者・前田智徳。その現役時代を雑誌『Number』に掲載された証言とともに振り返る
山本昌が舌を巻いた本塁打
<証言3>
前田に打たれたのはいまだにどうやって打ったのか、どこが悪かったのか理解できない。
(山本昌/『Number』841号 2013年11月14日発売)
◇解説◇
30年以上にわたって数々の名打者と対戦してきた通算219勝のサウスポーが左打者への勝負球としていたのが、外角低めのストレート。「100%打たれない自信があった」と胸を張る、生命線のボールだ。松井秀喜や小笠原道大にレフトへ運ばれることはあったが、ライトスタンドへ運ばれた1998年の前田のホームランは数々の勝負の中でも脳裏から離れず、歴戦の48歳が理解不能と舌を巻いた。
通算174打数も前田と対峙してきた中日のレジェンドは1995年以降も「打つことに関しては変わりなかった」とその評価が揺らぐことはなかった。
相手投手も恐れた前田だが、2000年3月にFA権を取得した際には、こう言い切っている。
「ケガがなければ考えたけど、今の自分には関係ない話だと思っています。周りが思うのと、自分が考えている力とは違いますから」(『Number』499号)
周囲から評価をされていても、理想とは程遠い自分の実力を許容することは到底できなかった。ちなみに元中日監督の落合博満は後年、自身のYouTubeチャンネルで「(FA宣言をしていたら)獲りに行ったと思う」と明かしている。