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格闘技PRESSBACK NUMBER
「しゃらくせえ!アイツは生意気な野郎だ」天龍源一郎74歳が語る25年前、武藤敬司とのベストバウト…まさかの大技に「俺、無事だ、良かった」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2024/05/19 11:02
天龍源一郎(74歳)が25年前の武藤敬司とのベストバウトを語った
ゴングが鳴り、ロックアップと思いきや天龍が武藤の足を取るところから始まる。腕の取り合いへと移行し、お互いに探り合っていた。
「あれは探られていたんだよ。49歳の俺が一体どれくらいのもんで、どれくらい動けるんだ、と。そういうのがモロに出るタイプのヤツだから、この野郎って思いながら対峙していたね。試合を通して俺のうまさはどうですかっていろんなものを見せてくるし、しゃらくせえって。アイツは36歳? まあ元気だったし、自信にみなぎっていた。舐められちゃいけないというのは肝に銘じていたよ。1回でも“上手回し”を取られてしまうと、天龍なんてどうってことなかったって言う姿が目に浮かぶんだよ」
グーパンチで片ひざをつかせたところに後頭部エルボー、側頭部から落とすブレーンバスター、武藤の側転エルボーへの逆水平返しなど、変化を加えた発想の技をどんどん繰り出していく。しゃらくせえの一方で、違う感情があったのも確かだ。
「凄く心地良かった。試合が進んでいくにつれて、俺、スウィングしてるなっていうのが実感できたくらい。タイミング、間の取り方、攻める攻められるも含めてピッチリ合っていたね。言葉では表せないけど、やってる者しかわからない感覚があった。ムタとやったときに口を押さえて毒霧を防いだんだよ。こうやったらびっくりするだろうっていう発想を与えてくれるから試合もエスカレートしていくんだよ」
スウィングとは躍動と理解していい。ジャズの世界でもよく使われる表現である。
武藤にミサイルキックから雪崩式フランケンシュタイナーとつながれてカウント2。早くもムーンサルトプレスかとトップロープに駆け上がったところに天龍が追いかけて“奥の手”スパイダージャーマンを見舞う。武藤を後方に投げ飛ばすと、腹筋で体を起こして腕に力こぶをつくって観客にアピールする。なるほど、スウィングしている。
まさかの…雪崩式フランケンシュタイナー
程なくして誰もが度肝を抜かれたシーンが訪れる。
グーパンチの連打、逆水平チョップでコーナーに詰めて、武藤の体をトップロープに引き上げる。そして自分も何か言葉を吐きながらゆっくりとコーナーの上へ。雪崩式ブレーンバスターじゃなく、トップロープに自分の両足を乗せた。
何をするんだ? 会場の視線を一点に集めた武骨の人はその刹那、ぶっとい足を武藤の首に巻き付けて一回転するよもやよもやの雪崩式フランケンシュタイナー。先ほどやられた技を見よう見まねで初披露したのだ。
「ジュニアヘビーの選手がよくやっていたし、簡単だろって思って。でも武藤を座らせて自分も(コーナーを)上がっていくときに不安になったね。これ、本当にやれんのかって。トップロープに立って両足を踏ん張ったときにあまりにアンバランスで転げ落ちそうだったから、後先考えないでやってみたっていうのが正直なところだよ」
「俺、無事だ、良かったって」
回転で武藤を飛ばすことに成功したものの、頭からマットに突っ込んだ。「グキッと音がした」ため、状態を確かめるように両拳で自分の頭をポンポンと叩いている。ブルブルッと身震いも起こった。