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格闘技PRESSBACK NUMBER
「しゃらくせえ!アイツは生意気な野郎だ」天龍源一郎74歳が語る25年前、武藤敬司とのベストバウト…まさかの大技に「俺、無事だ、良かった」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2024/05/19 11:02
天龍源一郎(74歳)が25年前の武藤敬司とのベストバウトを語った
「武藤と戦ったあたりから、ファンに想像させる、楽しいって思ってもらえるプロレスをやってみたいって思い始めた。それまでは相撲からやってきて、舐められてたまるかって。猪木さんがプロレスなんて八百長だって思われたくないっていう思いが強かったのは知っていたけど、それに負けないくらいの気持ちが俺にもあった。プロレスを舐められてたまるかってね。
そこからプロレスなんてと思うヤツにはそう思わせておけばいいし、お客さんにチケットを買った分だけはせめて返してあげたいってね。相撲からプロレスにやってきた天龍がこんなことをやるのかって人に思わせるのが好きなんだよ、俺は。お客さんが求めているだろうっていうものを見せていくのもプロだと思うから。喜劇役者の藤山寛美さんは『泣かせるまでが喜劇』と言っていた。だから劇中の話が、自分のなかにインプットされる。プロレスだって俺は同じだと思うよ。なんぼきれいにムーンサルトやろうが、なんぼきれいな技を出そうが、そこに何かがないと、お客さんが酒を酌み交わしても“いい試合だったよな”にはならないんだよ」
心に残すまでがプロレス。
だから天龍源一郎は、あのときコーナーにのぼってトップロープから一回転したのだ。武藤へのメッセージでありつつ、ファンへのメッセージでもあった。しゃらくせえ、と、楽しませたい、その思いの交差が伝説のシーンを生み出したのである。
天龍は今年3月、天龍プロジェクトの東京・新木場興行に来場し、車いすに乗ってファンに挨拶している。解説も務め、今もなおプロレスへの情熱を注いでいる。
「ここには必死になってプロレスを頑張っているヤツらが集まってくれていて、天プロでは好きなことやっていいと伝えている。開始3分、5分で大技を出したっていい。お客さんにアピールしたいなら、自分で自分の殻を破らなきゃいけない。えっ、こんなことをやるのかってインパクトは大事だから。ここでプロレスを磨いてほしいし、俺はここに集まってくる連中の試合をこれからも見ていきたいよ」
天龍から武藤への伝言「しゃらくせえ」
武藤との邂逅が、新たな使命感を抱いた天龍を再び走らせるターニングポイントになったことは言うまでもない。
次に武藤敬司に会って話を聞くと伝えると、またギロリとこちらをにらみつけた。
「年間ベストバウトを取れたのは自分のおかげだって、アイツなら思っているよ。しゃらくせえ」
相性が合わないから、あっと驚くあれほどのセッションが生まれるのかもしれない。武藤を語る仕草は、どことなく楽しそうにも見えた。
<武藤敬司編に続く>