濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ブアカーオの前に崩れ落ちた“ヒール”木村ミノル…ドーピング違反からの再起戦で見えた“最大の課題”とは? RIZINが求めるクリーンな成長
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/03/30 17:00
ブアカーオの猛攻に崩れ落ちた木村“フィリップ”ミノル
41歳でも強さを証明したブアカーオ
もちろん、それだけブアカーオが強かったということでもある。木村も試合後のコメントで、その実力を素直に認めていた。
「体の頑丈さとか距離の詰め方、経験したことのない圧力がありました。こういう負け方をするのが今の自分のレベル。強くなってやり返せるところまでいきたい」
一方のブアカーオは「自分が健在だと示すことができて嬉しいです」。自分のキャリアを作った国だけに、日本での勝利に上機嫌だった。41歳でなぜここまで強くいられるのか。そう聞くとブアカーオは答えた。
「一つはハーブをたくさん使ったタイ料理を食べること。もう一つは毎日同じトレーニングを同じようにこなしていくことです」
ステロイドよりもヘルシーなタイ料理……と言いたいわけではないのだろうが、やはり木村とは対照的に見えた。そこでまたブアカーオへの好感度が上がるのだった。
RIZINが求める“クリーン”な木村の成長
41歳でなお強かったブアカーオ。思い出したのは彼の試合を初めて見た時のことだ。2002年、K-1に出場する前の彼は“ムエタイの殿堂”ルンピニー・スタジアムで開催されたトーナメント『ムエマラソン』に参戦、優勝を収めている。K-1 MAXの規定体重70kgよりはるかに軽い140ポンド、約63.5kgの試合だった。
ブアカーオは決勝で日本の小林聡に判定勝利。パンチやローキックで“打撃戦”がしたい小林に対して徹底的に距離を潰し、組み付いてのヒザ蹴りでポイントを奪った。そういう闘いもできるブアカーオが、組み付きが著しく制限されるK-1でも“殴る蹴る”だけで優勝を果たしたのだ。ライバルたちに負けない肉体も作った。そのキャリアの変遷まで含めて、ブアカーオは驚異的だ。
ブアカーオについて、榊原は「今後RIZINのキックボクシングの軸になってくる」と語った。木村については「ここからがスタート」。ドーピング検査をクリアして試合にこぎつけたことは評価する、とも。
さすがにそれは甘いと言わざるを得ない。禁止薬物を使わないのは、あくまで普通のことだ。ただRIZINとしては、ここから“クリーン”な木村の成長を見ていきたいというスタンス。木村に“禊”があるとするならば、それは薬物に頼らず強さを見せ続けることだろう。
もちろんそれも、クリーンであることが大前提。RIZINのドーピング検査はタイトルマッチ及びランダムという形で試合後に行われているが、木村にはブアカーオ戦前の検査を課した。これが陽性だった場合、木村はRIZINを“永久追放”となる。彼はそういうところから立ち直るしかないのだ。