濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ブアカーオの前に崩れ落ちた“ヒール”木村ミノル…ドーピング違反からの再起戦で見えた“最大の課題”とは? RIZINが求めるクリーンな成長
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2024/03/30 17:00
ブアカーオの猛攻に崩れ落ちた木村“フィリップ”ミノル
格闘技の世界は、他のメジャースポーツやオリンピックのように統一組織があるわけではない。費用も時間もかかるドーピング検査を全団体が徹底できるわけでもない。
仮にドーピングが発覚して長期の出場停止となったら、その選手はチェックの甘い他団体に出るだろう。「選手は試合で生活していかなければならないですから」と榊原。そんな形でドーピングを続けてしまうよりは、RIZINの中で“更生”させようというわけだ。しかしそんな理由も、多くのファンにとってはどうでもいいことだったはずだ。はっきりしているのは“ルール違反を犯した者がいる”ということ。そしてそういう人間は、SNSではどれだけ叩いてもいいことに(なぜか)なっている。
“レジェンドvsドーピング野郎”という構図
3.23神戸大会でのブアカーオvs.木村が発表されたのは、大会の5日前。木村の検査結果が陰性だったことを受け、最後の追加カードとしてギリギリのマッチメイクとなった。契約体重は74kg。減量期間がないためだが、70kgで闘ってきたブアカーオにとってはかなり重い。
木村にとっては復帰戦にして重要なチャレンジだ。歴戦の英雄に勝てば大きな勲章になる。とはいえそれは木村にとってのテーマであって、検査をクリアして試合が決まってもダークなイメージは拭えない。
木村は対戦決定の記者会見でも「ドーピングはブアカーオも怪しいんじゃないか。僕は言える立場じゃないけど(笑)」と驚くような挑発コメント。“ヒール度”はさらに上がる。単純に言ってしまえば、この試合は“レジェンド対ドーピング野郎”だった。そう見られる試合で、ヒール/ヴィランである木村をブアカーオがヒーローとして“成敗”したのだ。
崩れ落ちた木村…「心はステロイドでは鍛えられないんです」
序盤は木村の左右フックが猛威を振るう。しかしこの展開は「予測通りでした」とブアカーオ。パンチをブロックすると反撃していく。ローキックを当て、前蹴りで距離を支配し、接近戦ではヒザ蹴り。失速した木村は右ストレートで金網を背負う形で崩れ落ち、そのまま立てなかった。
「心はステロイドでは鍛えられないんです」
中継の解説を務めた皇治は言った。木村を「ステロイドくん」とさんざん茶化していた皇治だが、この言葉は核心を突いているように思えた。今回のような試合は、木村の“負けパターン”なのだ。
序盤から猛攻するが、そこで倒し切れず反撃されると弱気になり、逆転されてしまう。劣勢になった時の粘りが木村の最大の課題だった。K-1時代の初期には「僕はそういう、勝ったり負けたりの選手としてやっていくしかないんだと思います」とも語っている。野球にたとえると“ホームランか三振か”のタイプだ。
だが真のトップとして活躍するなら、粘り強く四球を選んだり進塁打を狙う必要も出てくる。ドーピングの汚名を払拭しなければならない試合で、木村は「結局いつもの負け方じゃないか」となってしまった。