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“予告なし”の中日・立浪和義外し…無言の落合博満が記者に明かしていた言葉の意味「俺が座っているところからはな、三遊間がよく見えるんだよ」
posted2024/10/12 11:03
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
JIJI PRESS
その中から、2006年シーズンに立浪和義を外した場面を紹介する。落合監督はなぜ、ドラゴンズのスター選手であり、“聖域”ともいえる立浪のポジションをなんの説明もなく剥奪したのか。<全3回の第3回/第1回、2回も公開中>
予告なしの立浪外し
私の頭には数カ月前に聞いた落合の言葉が甦っていた。
「俺が座っているところからはな、三遊間がよく見えるんだよ」
タクシーの窓から空を見上げ、意味ありげに呟いたあの言葉である。
落合はついに立浪を外したのだ。それも予告なしに。
ミスター・ドラゴンズと呼ばれる男は、抑えきれない感情を何とか人目につかない用具室まで抱えてきて、吐き出した......。
それが私の描いた、ほとんど確信に近い想像だった。
新人時代からスポットライトを浴び続けてきた立浪は、同時に栄光の代償もその身に引き受けてきた。ゲームではもっとも重圧のかかる場面で、全員の願いを背負って打席に立った。敗れればチームを代表してカメラの前に立った。
とりわけ立浪を別格の存在に押し上げたのが、あの「10・8決戦」だった。
1994年の中日はシーズン最終戦を残した時点で巨人と同率首位で並んでいた。10月8日に両軍が優勝をかけて直接ぶつかりあったナゴヤ球場での決戦は、プロ野球史上 最高視聴率48・8パーセントを記録するなど歴史的なゲームとなった。
中日は、かつての主砲である落合からホームランを浴びるなど終盤までに3点をリードされていた。そんな敗色濃厚の8回裏、内野ゴロに猛然とヘッドスライディングして1本のヒットをもぎとった男がいた。立浪であった。25歳の遊撃手は、そのプレーで左肩を脱臼し、負傷退場することになったが、身を賭して勝利への執念を示したその姿は、敗戦の中の光として、名古屋の人々の心に刻まれることになった。
「これは俺にしかできない」落合の言葉の意味
いつだったか、球団関係者とこんな話をしたことがあった。
監督としてクビのかかった試合、1点ビハインドの9回裏ツーアウト満塁、打席に立たせるとしたら、誰を送るか?
関係者は迷わず答えた。