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「お前、ひとりか?」落合博満が自宅前で記者に放った“問い”「俺はひとりで来る奴にはしゃべるよ」落合はなぜ、わざわざ波風を立てるのか?
posted2024/10/12 11:01
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Hideki Sugiyama
その中から、2006年シーズンに立浪和義を外した場面を紹介する。落合監督はなぜ、ドラゴンズのスター選手であり、“聖域”ともいえる立浪のポジションをなんの説明もなく剥奪したのか。<全3回の第1回/第2回へ>
落合の発言で不穏なムードに
2006年のシーズンが開幕してまもない平日の朝、私は東京・世田谷の静かな住宅街にいた。
よく舗装されたアスファルトに白い外塀が映えていた。落合邸の表札には「落合」とは書かれておらず、別の姓があった。世に名を知られた人物にとっては、そのほうが何かと都合が良いのかもしれない。
落合邸には誰かに言われて来たわけではなかった。駅から何度も迷いながらたどり着いた3年前のあの朝のように、デスクの伝書鳩というわけでもなかった。私は落合に訊いてみたいことがあったのだ。
いつもは時間通りにベッドを出ることのできない私が、不思議とこの朝は起きることができた。むしろ予定していた時刻より早く目が覚めた。
いくら考えても説明のつかない、落合という人間に対する疑問が、私をいつになく能動的にしていたのかもしれない。
中日の監督になって3年目、落合は契約の最終年を迎えていた。このころ、周囲には不穏なムードが漂っていた。落合は1年目が終わってから選手と距離を置くようになり、感情をほとんど表現しなくなった。それによって徐々に選手との関係は緊迫していったのだが、それを決定的にしたのが、前の年の11月、名古屋市内のホテルで行われた球団OB会の席上での発言だった。報道陣も見守る衆人環視の中で、落合はこう言い放ったのだ。
「来年について言えば、ポジションは3つ空いていますーー」
その言葉で、オフシーズンのゆったりとしたムードは吹き飛んだ。
投手を除く8つのポジションのうち5つ、福留孝介のライト、井端弘和のショート、 荒木雅博のセカンド、タイロン・ウッズのファースト、谷繁元信のキャッチャーには他に代わる者が見当たらず、不動である。そう考えれば、落合の言う空席が、外野の2つと、立浪のサードであることは関係者なら誰もがわかった。その直前の秋季キャンプで 落合は、森野をサードに立たせ、自らノックを打っていたからだ。
立浪という“聖域”にまでメスを入れるのなら…
『立浪、レギュラー白紙』
翌日の新聞各紙にそう見出しが打たれることをわかって、あえて公の場で発言したのは明らかだった。