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「なんで、ひと言もないんだ!」立浪和義の怒声…落合博満はなぜ中日の“聖域”にメスを入れたのか?「これは俺にしかできない。他の監督にはできない」

posted2024/10/12 11:02

 
「なんで、ひと言もないんだ!」立浪和義の怒声…落合博満はなぜ中日の“聖域”にメスを入れたのか?「これは俺にしかできない。他の監督にはできない」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

キャンプ練習中に打撃のそぶりみせる中日・落合博満監督と、それを見守る立浪和義

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鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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 中日ドラゴンズで監督を務めた8年間、ペナントレースですべてAクラスに入り、日本シリーズには5度進出、2007年には日本一にも輝いた落合博満。それでもなぜ、彼はフロントや野球ファン、マスコミから厳しい目線を浴び続けたのか――。12人の男たちの証言から、異端の名将の実像に迫ったベストセラー『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(鈴木忠平著/文藝春秋)が、このたび新章の書き下ろしを加えて文庫化された。
 その中から、2006年シーズンに立浪和義を外した場面を紹介する。落合監督はなぜ、ドラゴンズのスター選手であり、“聖域”ともいえる立浪のポジションをなんの説明もなく剥奪したのか。<全3回の第2回/第3回へ>

落合の謎かけ

「なぜ、立浪さんを外そうとするんですか?」

 ずっと訊きたかったことだった。

「俺に何を言えっていうんだよ」

 落合は射るような横目で私を見た。

「選手ってのはな、お前らが思ってるより敏感なんだ。あいつらは生活かけて、人生かけて競争してるんだ。その途中で俺が何か言ったら、邪魔をすることになる。あいつらはあいつらで決着をつけるんだよ」

 落合はまた窓の外に目を向けた。

 私は感情の読み取れない横顔を見ながら、その言葉の意味を考えた。

 あいつらはあいつらで決着をつけるーー そこに指揮官として無言を貫く理由があるというのだろうか。わかったことはひとつだった。落合はリングをもうけた。そして、開幕直前の森野の骨折によって決着はついたのだ。

 車は再び沈黙を乗せたまま、第三京浜に入り、速度を上げていった。

 平日の昼ということもあるのだろう、下りの高速道路は空いていた。

「試合中、俺がどこに座っているか、わかるか?」

 今度は落合が切り出した。

 落合がゲーム中に座っているのはベンチの左端だった。いつも、ホームベースに最も近いその場所からじっと戦況を見つめている。

「俺が座っているところからはな、三遊間がよく見えるんだよ」

 落合は意味ありげに言った。確かにそこからはサードとショートの間が正面に見えるはずだ。

「これまで抜けなかった打球がな、年々そこを抜けていくようになってきたんだ」

「ここから毎日バッターを見ててみな」

 どこか謎かけのような響きがあった。私は一瞬考えてから、その言葉の意味を理解した。背筋にゾクッとするものが走った。

【次ページ】 「ここから毎日バッターを見ててみな」

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