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野球クロスロードBACK NUMBER
「髪、長いなぁ」「でも、これでいいんだよ」30年前の“脱・丸刈りブームの主役”がセンバツ甲子園にカムバック…キーワードは「いいオヤジになれ」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byAFLO
posted2024/02/02 06:02
2001年に仙台育英高で甲子園準優勝を果たした佐々木順一郎監督。当時はまだほとんどいなかった“脱・丸刈り”がチームのトレードマークだった
この世代でエースだった芳賀崇はかつて、こんなエピソードを提供してくれた。
「年末に日本エアロビクスセンターの施設に合宿にいったり、センバツ出場校が発表される前にも毎週、関東まで行って練習したり。佐々木先生はセンバツに出るつもりだったし、それを僕らにも伝えたかったんでしょうね」
芳賀の回想はまさしく、やるべきことをやる――エンジョイ・ベースボールの体現そのものだった。仙台育英はセンバツ出場を果たし、爽やかに長髪を揺らしてプレーした選手たちは準優勝と結果を残した。
「選手の自立」が「エンジョイ」に繋がる…?
佐々木のエンジョイで際立っていたのは、選手に自立を促すことだ。そのひとつに役割分担がある。
「掃除係」や「用具係」といった一般的なものから、備品を修繕する「DIY係」にグラウンド周辺の緑地などを整備する「園芸係」、ほかには佐々木が苦手な虫を遠ざける役割がいたりと、年々、ユーモアを取り入れながら「係」を編成していたそうだ。
これも、佐々木なりの指導の一環である。仙台育英時代、選手育成の多様性について尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「高校に入るまで、その選手が生まれてからどんな家庭環境で育ってきたかわからないわけです。その『わからない』ことが、僕らにとっては怖い。だから高校で環境を整えてあげないと。
『ダメなものはダメなんだ』とわかってもらう。時には叱ることだってあります。そうやって、何が正しいのか正しくないのかといったことを学んで卒業してもらえたらいいなと思うわけです」
93年に仙台育英のコーチとなってから長きにわたって人と向き合ってきたなかで、佐々木には人間育成の「その先」がはっきりと見えたのだと言った。