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野球クロスロードBACK NUMBER
「髪、長いなぁ」「でも、これでいいんだよ」30年前の“脱・丸刈りブームの主役”がセンバツ甲子園にカムバック…キーワードは「いいオヤジになれ」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byAFLO
posted2024/02/02 06:02
2001年に仙台育英高で甲子園準優勝を果たした佐々木順一郎監督。当時はまだほとんどいなかった“脱・丸刈り”がチームのトレードマークだった
伝統的に選手の髪形は丸刈りではなく、「エンジョイ・ベースボール」を掲げる慶応義塾。日々、選手たちと面談を繰り返してコミュニケーションを図り、データなどあらゆる要素を駆使してチームを底上げする仙台育英。
上下関係をはじめとする旧態依然とした高校野球のスタイルからすれば、異色とも受け取れる両校の甲子園制覇は、周囲に「高校野球新時代」の到来を印象付けた。
そんなチームを率いる森林と須江にも当然、バックボーンがある。それが上田であり、佐々木なのである。
「髪、長いなぁ。でも、これでいいんだよ」
今からおよそ30年前。高校野球でちょっとした「脱・丸刈り」ブームが起きていた。常総学院や天理といった強豪校も実践していたがせいぜい短髪で、1994年夏に甲子園ベスト8となった仙台育英は現在の慶応義塾のように長髪だったことが話題とされた。
当時、仙台育英でコーチだった佐々木は、ちょうどこの頃から上田との親交を深めていったのだという。
「髪、長いなぁ。でも、これでいいんだよ」
上田からそんな“お墨付き”をもらったことも、佐々木は今も覚えている。
互いの親和性は髪形への理解度だけではない。エンジョイ・ベースボールもそのひとつだ。佐々木は公言こそしないが、慶応義塾の理念にこの当時から共鳴している。
「『エンジョイ』の本質は、『楽しむ』とか『遊ぶ』という本来の意味ではないので。『やることをちゃんとやらないと、エンジョイできないよ』というね。そういうことも上田さんと話し合いながら再確認させてもらったこともありました」
それらを体現し、結果を残したのが01年のチームだった。前年秋の東北大会決勝で仙台育英は東北に0-2で敗北。本来なら2校ある東北地区の一般選考枠としてセンバツ出場校に選ばれる可能性が高いが、決勝に進んだ2チームが宮城県であること、青森の光星学院(現:八戸学院光星)が準決勝で東北に延長戦の末に惜敗といった結果もあり、仙台育英は「センバツ当確」とは言い切れない状況にあった。選手も当然、確信を持てずにいたなか、佐々木だけは違っていたのだという。