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野球クロスロードBACK NUMBER
「髪、長いなぁ」「でも、これでいいんだよ」30年前の“脱・丸刈りブームの主役”がセンバツ甲子園にカムバック…キーワードは「いいオヤジになれ」
posted2024/02/02 06:02
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
AFLO
昨年の夏。甲子園を熱狂させたのは慶応義塾だった。アルプススタンドを埋め尽くす、グレーのシンボルカラー。ブラスバンドの旋律に乗せて大音量で奏でる『若き血』。グラウンドの選手を援護する彼らの応援はさながら大波のようで、相手チームを飲み込み、そして甲子園をも味方につけた。
学法石川の監督・佐々木順一朗にとっても電話越しだったとは言え、慶応義塾の耳をつんざくほどの大声援は十分すぎるほど受け取ることができた。
教え子たちによる「甲子園決勝戦」
「自分たちの教え子が決勝にいったな」
声の主は、慶応義塾の前監督である上田誠だった。
グラウンドで指揮する慶応義塾の森林貴彦は彼の教え子であり、仙台育英の須江航も同校での選手時代は佐々木から学んだ監督である。
佐々木が懐かしむように話す。
「応援に行っていた上田さんが、アルプススタンドからわざわざ電話してくださって。あちらは慶応で私は早稲田の出身ということで前からライバル心はありますけど、お互い認め合う仲というか、親友でもありますから」
その両校が激突した決勝戦を慶応義塾が制し、実に107年ぶりの全国制覇を果たした。
仙台育英を率いて2001年春と15年夏に準優勝。2度の「あと一歩」を経験している佐々木は、この決勝を通じて高校野球が移り変わる様が自分のなかに入ってきたという。
「一番の分岐点は一昨年に育英が優勝したことですけど、去年に慶応が優勝して。僕自身、長年そこを目指してきて、2回、決勝に進んで果たせなかったことを両校が果たしたことで、心のなかで『何か時代が変わったんだな』と思わざるを得なかったです」
佐々木はそう言って、少し自らを嘲るような笑みを浮かべた。