“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「あの10番、こんないい選手だったのか」超攻撃型DFの覚醒に思わず本音が…「プロor大学進学」Jスカウトを悩ます高校生の早すぎる進路選択
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byHiroki Watanabe/Getty Images
posted2024/01/12 11:03
3バックの一角を担いながら「10番」を背負い、アグレッシブな攻撃参加で存在感を残した近江・金山耀太(3年)
高1時から出番を掴んでいた金山が左CBにコンバートされたのは今シーズンから。前田監督は「プロになれるとしたらサイドバックかウィングバック。ここで花が開くためには今年1年間は守備を学んでほしいと考えた」と、将来を見据えた狙いがあったことを明かしていたが、これが見事にハマり、近江の武器となるまでに成長した。
金山の覚醒により、西村に求められる仕事も大いに変わった。昨季までの3バックはリスクを回避するために後方に残ることが多かったが、金山が左CBに入ったことでアグレッシブさに磨きがかかった。「自分の判断で(攻撃に)行かせてもらっている」という金山を常に視野に置きながら、その開いたスペースを埋めるポジショニングを確認する。さらに周りの選手の配置、相手のカウンタールートや浮いた相手FWのマークと、多くの情報を収集し、発信する。高度なタスクをこなしてきたことで、プロも認める安定感が生まれたのだ。
こういう背景を知ると、Jクラブのスカウトが選手権で活躍する2人を見て、悔しがっていた理由が腑に落ちる。もし、金山のコンバートが1年早かったら――なんてタラレバも考えてしまうが、仮にそうだったとしても上級生に遠慮して今のようなダイナミックな攻撃参加をできていなかった可能性がある。それだけ高校生の育成は先が読みにくく、それを見極めるスカウトという仕事の難しさを痛感する。
「選手権は就職活動の場」だった時代
今から28年前、74回大会でベスト4入りを果たした初芝橋本高FW吉原宏太は、大会前に「選手権は就職活動の場」と宣言し、見事にコンサドーレ札幌の内定を勝ち取った。その言葉は、令和の時代では高1や高2の選手が使う言葉のようだ。
ただ、時代は変われど、選手権が「人生を変える大会」であることに変わりはない。
決勝戦のピッチを噛み締めて西村は言った。
「今大会で自信がついたというか、確信できる部分があった。大学サッカーでもっと成長をして目指すべき場所に行きたいと思います」
大学で技を磨き、いずれプロへ。近江の快進撃は、サッカー界への問いかけとなった。