- #1
- #2
“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「怒鳴られるの絶対嫌、よかった野洲で」高校サッカーに衝撃を与えた“セクシー天才集団”「罰走の横で談笑ストレッチ」坊主・鹿実と伝説の決勝
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2023/12/29 11:02
2005年度高校サッカー選手権・決勝で鹿児島実業を下して全国優勝を達成した野洲。ストライカーとして活躍した青木孝太(写真右)が当時を振り返った
「対戦するチームはミスをしたら怒鳴られていたし、試合後にずっと走っているチームもありました。でも、僕らはそばで談笑しながらストレッチをしていた。試合中ですらベンチにまともに座っていない選手もいましたから。周りには異様に見えたかもしれませんが、僕らからすると対戦相手の方が堅苦しいように思えました。『しんどそうやな、絶対嫌やわ、良かった野洲で』ってよく話していましたから」
ミーティング中も違う方向を見ていても構わない。でも、ちゃんと耳だけはこちらに向けておけ。これは岩谷からよく言われていたこと。そんなふうに、形にとらわれないのが野洲の指導だった。
「相手からすれば、こんな奴らに負けたくないと思うのが普通ですよね。それでいて、ボールは奪えない。当時はなんで?って思っていましたが、そりゃ、みんな削ってきますよね(笑)。でも、僕らはおちょくっている気持ちは一切なく、純粋に自分たちのサッカーをやっていただけ。なんなら相手をちゃんと見て“逆”を取っていただけなんです」
対照的だった鹿児島実業との決勝戦
全国的な知名度はないながらも、着実に力をつけていった野洲はついに2005年度の選手権でその名を全国に轟かせる。高校3年生だった青木も「優勝」だけでなく「得点王」も誓って選手権に臨んだ。
果敢に裏を狙い、ボールを持ったらドリブルで仕掛けてフィニッシュする。うまさと力強さ、そして献身性を兼ね揃えたプレーで、初戦の修徳戦のゴールを皮切りに3回戦まで3試合連続ゴールをマークした。
決勝戦の相手は正統派の鹿児島実業。髪をなびかせる青木らに対し、名門・鹿実は伝統の坊主頭。そんなコントラストも国立の舞台で一層、映えた。
「僕らとは正反対の“横綱”。多くの観衆が詰めかけた国立で僕らのサッカーを存分に見て欲しかったし、異端のサッカーで正統派を打ち負かしたいという気持ちでプレーをしていました」
延長戦の末に2-1。激闘を制した野洲は初の全国優勝を達成。鮮やかな決勝点は、乾のヒールパスなどを経由した見事なカウンターアタックから生まれ、今も伝説のゴールとして語り継がれている。
「優勝した瞬間は『報われた』という気持ちになりましたね。僕だけじゃなく、みんなこのメンバーで全国優勝することを最後まで信じてやってきましたから」
強烈なインパクトを残し、最高の形で有終の美を飾った。この活躍が認められ、青木はジェフ千葉への加入を勝ち取った。当時のメンバーの多くが後にプロ入りを果たしているが、高卒Jリーガーとなったのは同学年のチームメイトでは青木だけだった。
皆から浴びせられた称賛と祝福。しかし、ここから青木は茨の道を歩むことになる。
(続く)
◆後編では、28歳で決断した「早すぎる引退」の理由と、天職に出会えたと語った現在の意外な姿に迫っている。